ホームコーヒーのある生活珈琲コラム作る国から飲む国へ-審査されるコーヒー豆-

珈琲コラム coffee column

TOPへ戻る[コラム検索]column search
このコラムをプリント
その他のコラム
 

作る国から飲む国へ
-審査されるコーヒー豆-

[カテゴリ]
加工・品質管理
[著者]
竹本 彰太
[掲載年月]
「月刊 珈琲人」 2005年08月号(珈琲究人[こーひーきわめびと]シリーズより)
日本で消費されているコーヒーは、沖縄や小笠原産など一部例外を除いて、全て輸入品です。品種や栽培環境によってその味わいは異なりますが、収穫され、焙煎前の状態まで加工されたコーヒー生豆(なままめ)を、日本は約40ケ国から輸入しています。
コーヒーは遠方から運ばれる原料でありながら、流通過程が味わいにも影響を及ぼすため、その取り扱いは想像以上に細心の注意をはらう必要がある産品です。
今回は流通過程において非常に重要である“品質審査”についてお話ししましょう。
■ 作る国から飲む国へ
その前に、いろいろな流通形態がありますがコーヒーの流通経路の一例として、“ブラジルの中規模農家で生産されたコーヒーが日本のメーカーの工場に届くまで”を簡単にご説明します。

〜生産国では〜
[1]

収穫の様子
農家はコーヒーチェリー(コーヒーの実)を収穫し、 乾燥・脱穀して生豆にしたのちに輸出会社に販売します。
[2]
袋詰め
コンテナに積むところ
輸出会社は、海外(日本などの消費国)に生豆を売り込み、 取引が成立したら、顧客の要望に沿ったコーヒーを、選別し、袋詰めした後、 コンテナに積み込んでトラックで港へ運びます。
[3]
ブラジルの伝統的なコーヒー積出港
サントス港
輸出手続き完了後、顧客の指定する貨物船にそのコンテナを積み込みます。
〜消費国では〜
[4]

顧客はその生豆に海上保険をかけ、 船積み書類を受領した後、その代金の決済をします。

[5]
仕向港に生豆が到着したら、船会社に海上輸送費を支払い、 船積書類を提出して生豆を受け取り、通関して、倉庫で保管されます。

[6]
倉庫からメーカーの工場へ運ばれ、焙煎包装され製品になります。
■ 生産国が生んだ財産“輸出規格”
サイズを測るためのふるい。上から下にかけて穴がだんだん小さくなっている。
テストペーパーの上で欠点数を数える。
コーヒーの取り引きをする際、生産国と消費国が遠く離れているうえ、言葉や文化も異なるため、コーヒーの品質を同じ物差しで計る尺度が必要でした。そこで、コロンビアやベトナム、インドネシア、中米、エチオピア等々、各生産国では、それぞれの輸出規格を持つようになったのですが、これは取引の長い歴史の中で、貿易がスムーズに行われるよう鑑定技術を発展させ、誠実に実行してきた生産国の財産です。

例えば、“ブラジルの「No.2/Screen 18/UCC Quality」”なら、『コーヒー生豆300g中の欠点豆は4欠点、色は薄緑色で均一、直径64分の18インチの穴があいたふるいにかけても落ちない大きさがあり、カップは均一で異味異臭がなく、ブラジル特有のソフトな風味を持ち、焙煎した状態の豆の外観も優良なコーヒー』と言うことが、瞬時に売り手と買い手の間での共通理解となります。こういった品質基準は、貿易取引を円滑に行うためには無くてはならない重要なツールです。
規格を決める基準は、産地の標高だったり、粒の大きさや欠点数、風味だったりと多岐に渡るので、各国の基準の成り立ちを考えると、産地事情の勉強にもなってなかなか面白いですよ。
■ 審査されるコーヒー豆
基準の中で登場した「カップ」とはコーヒーの味のことです。味を確かめる作業は「カッピング」と言います。
これまでの伝統的なカップ審査では、異味異臭の有る無し、風味の大まかなランク付けなど品質鑑定に重きが置かれていましたが、最近はスペシャルティコーヒー()の台頭で、そのコーヒーの持つ特徴や良い部分を加点方法で評価する、新しいカップ審査方法が広く受け入れられるようになってきました。現在私はコーヒー豆のカップ審査員を国内外で務めていますが、ここで、「伝統的な品質鑑定」と「スペシャルティコーヒーのカップ審査方法」の違いについて、学んだ際の体験を通してご紹介します。

※スペシャルティコーヒー:基準は各国のスペシャルティ協会によって異なるが 総じて“高品質で美味しいコーヒー”を指す言葉として使われる。

当時撮影した鑑定士学校の授業の様子
私は会社から研修生としてブラジルに派遣され、IBC(ブラジルコーヒー院)で伝統的な鑑定方法を1984年に習得しました。ブラジルIBC鑑定士学校は、卒業後すぐにコーヒーの取引やコーヒーの担保価値が判定できるスペシャリストを養成することを目的としているので、鑑定士として必要な学科のほか、農園や倉庫、選別工場の実習も行われます。また、鑑定士には、職人のような正確さと早さ、さらには植物学から選別工場の作業指示書作成や貿易実務までの幅広い知識が要求されるため、カップや格付けを決める練習と試験も繰り返されます。

ここで学んだ伝統的な品質評価方法は、収穫年度、乾燥や保管が適切であったか、粒の大きさは、欠点数はいくつか、焙煎の仕上がりはどうか、といった「外観」と、ソフト(上品な香りで、やわらかな口当たり)、ハード(まろやかさの無い)、リオ(リオと呼ばれる独特の臭い)、異味異臭の有無といった「カップ」などを、とにかく素早く適切に判断することでした。

各国の審査会の様子
一方、スペシャルティコーヒーのカップ審査では、さらに、香り・甘み・酸味・後味などの要素別に点数がつけられ、その合計点がコーヒーの評価になります。SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)の基準ならば、審査員が評価した結果、85点以上ついたコーヒーに『スペシャルティコーヒー』の称号が与えられます。

この新しい評価方式では、スピードは要求されませんが、後味までじっくりと味わい、おいしさを適切に点数化することが重要視されるわけです。
私は昨年、米国のバーモント州でSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)でSCAA認証のカップ審査員の資格を得ました。審査員になるためのコースを受ける際には、まずはカップ評価の基本スキルを持っていることが前提になります。その上で、妥当なカップ評価ができるか、味覚、臭覚、触覚の検知能力(敏感さ)、弁別能力(違いがわかるか)、同定能力(何であるかがわかる)がテストされるのです。現在は、SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)のテクニカルスタンダード委員としても、カッピングセミナーを通じて新方式普及のお手伝いをさせて頂いています。
■ 世界は美味しいコーヒーであふれている
審査に使われるシート
最近、ネットオークションで産地のカップ審査入賞コーヒーが売り出されるようになりました。スペシャルティコーヒーに興味のある方なら、「Qオークション」「カップオブエクセレンス」「エクセプショナルカップ」「コセチャデオロ」等の言葉を聞いたことがあるかもしれませんね。「カップオブエクセレンス受賞豆」などのコピーを掲げて販売されているのは、こういった審査会で高評価と受けたコーヒーです。
審査会では、形式に多少の違いこそあるものの、スペシャルティコーヒーの審査方法と同じような考え方で作成された審査シートが使用されています。審査員たちは自分の五感を駆使して、コーヒーの味わいを項目ごとに数値化しながら、品質を判断していくのです。
審査会に参加すると、実に様々な味わいのコーヒーに出会います。そしてそのたびに、世界には美味しいコーヒー作りに真摯に取り組む農園主がたくさんいることを実感するのです。
■ すべては“奇跡的に出会えた”1杯
コーヒーは本当にデリケートな飲み物です。1杯の美味しいコーヒーが生まれるためには、栽培や物流、加工に携わる関係者の経験と工夫の積み重ねが必要です。収穫の時、コーヒーチェリーを汚い容器に入れて臭いが付いたり、精選処理が遅れて発酵してしまったら、品質は台無しになってしまいます。また、流通や加工過程でも、品質を確認するために手間のかかるカップテストが、繰り返し慎重に行われます。
それ以前に、産地特性が重要視される輸入品ですから、まずは、生産国の状況、安全な海上輸送や金融システムが正常に機能していることも前提条件になります。
それだけではありません。コーヒーの美味しさは、焙煎豆となってご家庭に届いた後も、保管状況や鮮度、挽き方、抽出方法で変わり、さらには、使用するカップやその場の雰囲気、飲む人の気分や体調、直前に飲んだもの、食べたものの影響などで変わってきます。つまり各行程に数え切れないほどの選択肢があるのがコーヒーという飲み物です。あなたがさっき口に含んだコーヒーは、もう2度と出会うことのできない最高の一杯だったかもしれないのです。

コスタリカの麻袋と。
・・・1杯の香りに想像力を働かせるだけで、その想いは世界へと広がります。今回は品質を鑑定する立場としてその任務を簡単に紹介しましたが、また機会がありましたら、品質検査の具体的な方法などもご紹介したいと思います。

このページのTOPへ