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前回は“コーヒー豆が産地から消費国に届くまで”を、コーヒー鑑定士の視点でご紹介しました。今回は、コーヒーの品質を守るために、それぞれの過程でどんなチェックが行われているか、もう少し踏み込んでお話ししましょう。 ■ “品質”はどのように決まるのか?
ここで言う“品質”とは、コーヒー豆の商業価値を決める判断基準のことです。
品質を決める最初の要因はコーヒーの品種です。商業用として栽培されているコーヒーの品種は、アラビカ種とカネフォラ種、この2つが基本になります。アラビカ種の風味は「高い香りと快い酸味」、カネフォラ種は「香ばしい苦味」、少々大胆かもしれませんが、まずは2つの品質・風味をそんな風に表現してみます。 もちろん、コーヒーの分類はそんな単純なものではありません。この2種類を出発点として、ここから先が一気に複雑になります。同じアラビカ種であっても、栽培された標高や気候条件、土壌や栽培管理、収穫方法やその後の処理、乾燥、選別や保管状況など、数えきれない程の組み合わせによって品質が決まっていくからです。 これらの違いを整理して、品質や市場価値を正しく判断するには、専門的な知識や訓練を受けた“コーヒー鑑定士”や“カップ審査員(味を確かめて品質を判断する)”の力が必要になります。単に「おいしい」「まずい」だけで判断するのではなく、品質、つまり産地ごとの特性や需給を理解したうえで、風味や外観の特徴を点数化したり、適切な言葉で表現したりする技術がいるのです。 ■ 生産国での品質チェック
コーヒーの品質基準や輸出規格は、生産国のそれぞれの事情によって設定され、品質や味を計る物差しも様々です。ここでは、産地特性ごとに整理してみましょう。
中米・コロンビア・タンザニア(キリマンジャロ)の場合 米のグアテマラやコスタリカなどでは、産地の標高によって豆のグレードが決まります。 栽培された場所の標高が高いとコーヒーの実はじっくり成熟するため、硬くてしっかりとした種(豆)になり、良質な酸味が豊かになり、コクのある深い味わいのコーヒーになるのです。逆に標高が低いと、豆はやわらかい質感になり、酸味が抑えられた軽やかな風味になります。グアテマラならば、1350m以上の標高で取れたものを、「グアテマラSHB(スクリクトリーハードビーン)」、以下「HB(ハードビーン)」「EPW(エクストラプライムウォッシュド)」…と格付けしていきます。 コロンビア・タンザニアは高地だけで生産されているので、標高差では格付けをしません。そこで、篩(ふるい)を通してコーヒー豆のサイズを分けて格付けします。コロンビアならば、大きい順に「スプレモ」「エクセルソ」、タンザニアならば、「AA」「AB」などと分類されるのです。 エチオピア(モカ)・ブラジルの場合 モカは「ハラー」や「シダモ」など産地名に加え、一定量の生豆の中に、未成熟豆や割れ豆などの欠点豆が混入している割合で格付けされます。“シダモ”という産地で生産された日本向け一般品は「シダモ G4(グレード4)」と呼ばれます。 また、ブラジルは広大な産地で様々なコーヒーが生産されるため、大量のコーヒーを安定的に供給するための鑑定技術が発達したところです。“カップ”と呼ばれる味を判断する過程では「ソフト(柔らかく甘みがある)」「ハード(刺激性の強い)」「リアード(軽いヨード臭がある)」「リオ(ヨード臭の)」等の風味による格付けがベースになります。また、豆の外観もチェックされるので、欠点豆の数を調整したり、篩(ふるい)で粒のサイズを分けたりします。「No.2/スクリーン18, ソフト」は大粒で欠点がほとんど無いカップグレードの高い豆です。
はじめに挙げたグループ、中米・コロンビア・タンザニアでは、コーヒーの実の外皮を除去し、水洗いする「水洗式(ウォッシュド)」で生豆になります。 また、次のグループ、ブラジル・エチオピアなどは、コーヒーの実の外皮を付けたまま乾燥させる「非水洗式(ナチュラル)」が精製方法の主流です。 水洗式で加工したコーヒーは、透明感のある爽やかな酸味が特徴で、非水洗式は、複雑でソフトな風味になります。ちょっと強引かもしれませんが、ワインに例えると、前者が白ワイン、後者が赤ワイン、そんな風に表現することもできるかもしれません。なんとなく雰囲気は分かって頂けるでしょうか? ■ “カップ”で品質をチェック
最近では、顧客、つまり“消費国側”の要求に基づいて品質を作りあげることも産地での重量な課題になっています。そのため、風味や外観の点数化や、言葉で表現することがますます重要になっているわけです。
それでは具体的にコーヒーの鑑定方法をご紹介します。 まずは“カップテスト(風味の審査)”の手順です。
その後、表面に残った泡や粉を取り除き、液体をすくって、口腔内で霧状になるように勢い良く吸い込みます。ここで香り、酸味、甘さ、苦味、コク、渋み、バランス、後味、均一性、産地特徴等を記録します。 写真はカップテスト専用のカップとスプーンを使っていますが、耐熱グラスとスプーンさえあればご家庭でも出来ないことではありません。もしも、試してみたいなら、最初は同じ産地のコーヒーを手に入れて比較してみることをお勧めします。例えば、モカとコロンビアなど、風味が著しく異なるコーヒーでカップをすると、慣れない方は頭が混乱してしまうでしょうから。 伝統的な「品質を鑑定する」カップテストとは別に、最近「おいしさを評価する」スペシャルティコーヒーのカップ方式も広く知られるようになってきました。その審査方法では、香りや酸味等、風味の要素ごとに点数をつけて、合計点がそのコーヒーの評価になります。例えばSCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会)方式では10項目を10点満点で評価します。つまり100点が満点ですが、90点以上を獲得するコーヒーは、産地のカップコンテストでもなかなか出会えません。 ■ “見た目”でチェック
これは練習する機会さえあれば、違いはわかってきます。欠点数という言葉が何度か出てきましたが、これは生豆の中の黒豆や虫食い豆、割れ豆などと、夾雑物(きょうざつぶつ:余計な混ざり物)の数を数えて点数化するわけです。
官能でチェックする風味、目でチェックする外観など、格付け方法をマスターすれば、コーヒー産地で農家から買い付けすることもできる!なんて思われるかもしれませんが、残念ながら値段のことも関わってきますので、実際は、技術だけではなく実務経験と信用が必要になります。 ■ “麻袋”をチェック 〜保管される前に〜
最後に、目立たないけれども大変重要な“コーヒーの品質管理”をご紹介しましょう。
このとき、麻袋に染みがあったり、少しでもおかしいところがあれば、“刺(サシ)”と呼ばれる筒状の棒を麻袋に刺して豆を抜き取り、コーヒーの状態を確認します。異常があった袋はその場で仕分けし、間違って出荷されないようにするのです。もちろん、通関の前提で植物防疫法や食品衛生法に基づく検査も行われています。
■ ブラジルの品質コンテスト
(2005年) 12月3日に「UCC/CAFUSOコーヒー品質コンテスト」の授賞式がブラジルのエスピリットサント州の山岳地帯で行われますので、この機会に紹介します。 もともとこの地域は大西洋岸の海岸山脈に位置し、収穫時期に湿気があるため、非水洗コーヒーの生産には品質的に不利な場所でした。
地元と消費国が協力して、不利と思われていた自然環境を克服し、特徴のある優良産地を育てることができたのは、客観的なカップ評価技術も、その一助になっていると思います。 農園からカップまで、関わる人がそれぞれ役割を完全に果たし終えたとき、おいしいコーヒーが出来上がります。 当たり前のようですが、距離的にも時間的にも、それは本当に遠い道のりです。 このことを思うと、品質を評価する鑑定士やカップ審査員の責任は非常に重いものだと、ひしひしと感じます。 鑑定や審査に携わる者としては、体調や食べ物に気を付けるのはもちろんですが、多様な場面での審査活動にも参加し、自身の技術のチェックを怠らないことが、この大事な役割を担い続けるのに必要なことではないかと思います。 |