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クロロゲン酸類

食後血糖上昇抑制効果

脱カフェインコーヒー生豆抽出物のラットとヒトでの食後血糖上昇抑制効果について報告

第23回国際コーヒー科学会議ASIC、Food Science and Technology Researchにて発表

UCC上島珈琲株式会社は、コーヒー豆に含まれるクロロゲン酸類の糖質分解酵素阻害活性への寄与について研究しました。この研究成果は第23回国際コーヒー科学会議ASIC(2010年10月3日〜8日 / Bali Grand Hyatt Hotel / インドネシア バリ島)にて口頭発表しています。また論文としてFood Science and Technology Research誌にも掲載され、2012年度のFood Science and Technology Research Award(論文賞)を受賞しています。

発表年月日 (学会発表)2010.10.04 (論文)2012.07.25
和文標題 脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)は、ラットとヒトにおける食後高血糖を抑制する
英文標題 Study on the Postprandial Glucose Responses to a Chlorogenic Acid-Rich Extract of Decaffeinated Green Coffee Beans in Rats and Healthy Human Subjects
著者名 岩井和也、福永泰司、中桐理 (UCC上島珈琲)、神谷智康、池口主弥 (株式会社東洋新薬)、菊池好晃(元 左門町クリニック)
資料名 Food Science and Technology Research
巻号ページ(発行年月日) 第18巻、6号、p849-p860(2012)
概要(学会発表要旨) 脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)の、ラットあるいはヒトにおける食後の血糖値、インスリンの反応を評価した。ラットにおいて、EDGCBと炭水化物(EDGCB:500mg/kg体重)とスクロース、マルトース、可溶性デンプン、グルコース(2g/kg:10mlの水に溶解)を経口投与したところ、EDGCBは、コントロールと比較して30分後の血糖値を有意に抑制した。ヒト試験においては、試験食200g(おにぎり)と100または300mgのEDGCBを200mlの水に溶解したものを与える二重盲験クロスオーバー法によって評価した。EDGCB(300mg)投与によって、コントロールと比較して食後30分後の血中グルコース濃度は有意に低下した(n = 41)。
高いグルコース応答があった被験者(41人中、30分後の血糖上昇が平均より高かった18人)で層別解析したところ、EDGCB投与区ではコントロールと比較して30分後の血中グルコース量が有意に低下した。また、0分から120分までのグルコースAUC1)もEDGCB投与によって有意に低下した(100mg)。本実験を通して、血中インスリン濃度について有意差は確認されなかった。これらの結果より、EDGCBの食後血糖上昇抑制作用はインスリン分泌促進作用ではなく、糖質分解酵素の阻害や、グルコースの腸管からの吸収を阻害しているものと考えられる。

研究の背景、目的

糖尿病とは

近年、西洋のライフスタイルの普及によって血糖値が高い人が急速に増えてきています。厚生労働省が行なった平成19年の国民健康・栄養調査結果によると、「糖尿病が強く疑われる人」は約890万人、「糖尿病の可能性が否定できない人」は約1320万人、合わせて「糖尿病の可能性がある人」は約2210万人と推計されています。
デンプンや砂糖などの糖質を摂取すると、体内の消化器官でα-アミラーゼ、スクラーゼ、マルターゼといった酵素によって分解されます。酵素によってばらばらになったブドウ糖や果糖などは小腸から吸収されて、血流に乗って全身に運ばれます。このとき膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、インスリンの働きによって糖が骨格筋細胞に取り込まれ、エネルギーになります。糖尿病では、膵臓からのインスリン分泌が正常に行われなかったり、働きが悪くなったりしているために、吸収された糖が体内に取り込まれ難くなっています。
血糖値が高い状態が続くと、血管は大きなダメージを受け続け、様々な合併症を併発しやすくなります。特に網膜症、腎症、神経障害は、糖尿病の3大合併症と呼ばれています(図1)。
糖尿病を予防するには、普段からの生活習慣を整えることが大切ですが、食後血糖値が急激に上がらないように気をつければ、インスリンを分泌する膵臓に負担をかけることなく、糖尿病の予防にもつながるといわれています。

図1. 糖尿病の合併症

クロロゲン酸

近年、コーヒーの飲用と糖尿病発症について、世界中で盛んに研究されています。特に、コーヒーの飲用習慣が糖尿病の発症リスクを下げるとの学説が注目を集めています。
UCCでは、コーヒーに含まれているポリフェノール(クロロゲン酸類)が糖質の吸収に関与しているのではないかと推測し、まずコーヒー生豆を超臨界流体二酸化炭素で脱脂、脱カフェイン処理し、その後アルコールでクロロゲン酸類を抽出した脱カフェインコーヒー生豆抽出物を開発しました。この脱カフェインコーヒー生豆抽出物にはクロロゲン酸類が約40%含まれています。

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図2. 脱カフェインコーヒー生豆抽出物とクロロゲン酸類の割合

クロロゲン酸類とは、植物界に広く存在するポリフェノールの一種ですが、コーヒー生豆にはクロロゲン酸類が5%〜10%と、とりわけ多く含まれています。コーヒー生豆に含まれるクロロゲン酸類はカフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)など、60種類以上にもなります。
先の研究で、クロロゲン酸類を含む脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)は、糖質分解酵素であるマルターゼ、スクラーゼおよびα-アミラーゼに対して酵素の活性をブロックする効果を示しました。これはα-GIと呼ばれる経口糖尿病薬と同様の作用で効果を示すことがわかっています。本研究では、脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)を、ラットあるいはヒトに投与した場合、食後血糖値にどう影響を及ぼすかについて調べました。

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図3. クロロゲン酸類の化学構造

研究概要

(1)脱カフェインコーヒー生豆抽出物の血糖上昇抑制効果(動物試験)

まず、ラットを16時間絶食させたのち炭水化物(スクロース、マルトース、可溶性デンプン、グルコース)と脱カフェイン生コーヒー豆抽出物(EDGCB)を投与する試験を行いました。投与した後、投与前( = 0分)、30分、60分および120分に血液を採取し、血糖値の測定を行ないました。
ラットに炭水化物(スクロース、マルトース、可溶性デンプン、グルコース)のみを投与した場合、糖はラット体内で消化吸収され急激に血糖値が上昇します(図4の赤いグラフ参照)。
しかし、これにEDGCBを共に経口投与すると、30分後の血糖値が有意に低下することがわかりました(図4の青いグラフ参照)。また、グルコース(ブドウ糖)を投与してもEDGCBはラット血糖値の上昇を抑制していました。ブドウ糖は他の糖と違い、酵素分解を受けず小腸から直接吸収されるため、この場合は腸から血液に吸収される部分をブロックしているものと考えられます。EDGCBそのもの、あるいは水を投与したときには血糖値を示すグラフに変化は見られませんでした。つまりEDGCBが生体内でも糖の分解・吸収に対して影響を及ぼしていることがわかりました。

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図4. 脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)の血糖値上昇抑制効果(ラット)

(2)脱カフェインコーヒー生豆抽出物の食後血糖上昇抑制効果(ヒト試験)

ヒト試験はまず、被験者に対して2個(計200g)の市販おにぎりと、テスト飲料(100mgまたは300mgの脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)を200mlの水に溶解したもの)とを共に食べ、投与前(=0分)、30分、60分および120分に血液を採取、血糖値の測定を行ないました。データが得られた41名について解析を行いました。食後30分の血糖値は、EDGCBを添加した飲料を摂取した場合、摂取しなかった場合(コントロール)よりも統計学的に有意に血糖値が低下しました。
また、本実験では健常者を集めて実験したこと、また一般的に、食後血糖値のピークには個人差があるといわれていることから、全ての被験者の中で、食後30分の血糖値が平均値より高かった被験者18人を選抜して統計処理を行ないました。このグループ18名では、EDGCBは食後30分後の血糖値がコントロールと比較してよりはっきりと血糖値の上昇を抑制していたこともわかりました。さらにEDGCBは0分から120分までの曲線下面積(AUC)1)も統計学的に有意に抑制していました。

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図5. 脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)の血糖値上昇抑制効果(ヒト)

(3)脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)の投与タイミングについて

これまでのラットおよびヒトの実験で、脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)と炭水化物を同時に摂取したとき、食後血糖値の上昇が抑えられることがわかりました。本実験では、EDGCBの摂取タイミングをずらした場合、食後血糖値がどう影響するか検証しました。
本実験ではラットに対し炭水化物(スクロース)と脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)を投与する試験を行いました。EDGCBをスクロース投与の30分前、同時、5分後の3つの時間帯にずらして投与し、スクロース投与前( = 0分)、投与後30分、60分および120分に血液を採取し、血糖値の測定を行ないました。
実験の結果、EDGCBをスクロースと同時投与した場合、最も効果が高くなるということがわかりました(図6参照)。これは食事と一緒にクロロゲン酸類を摂取すると、最も効果的に食後血糖値上昇が抑えられることを意味します。

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図6. 脱カフェインコーヒー生豆抽出物の投与タイミングについて

[まとめ]

クロロゲン酸類を豊富に含む脱カフェインコーヒー生豆抽出物(EDGCB)は、α-GIと呼ばれる経口糖尿病薬と同じく、糖質分解酵素であるマルターゼ、スクラーゼおよびα-アミラーゼの働きを阻害する効果を示しますが、動物実験でも炭水化物の投与に対し、血糖値の上昇を有意に抑制しました。
このときブドウ糖を投与してもEDGCBはラット血糖値の上昇を抑制したため、EDGCBはグルコースの腸から血液への吸収をもブロックしていることが考えられました。同じく、ヒトに対してもEDGCBを摂取したとき、摂取しなかった場合と比較して有意に食後血糖値が低下しました。また血糖の上昇が速い被験者ほど、よりはっきりと血糖値の上昇を抑制していたこともわかりました。さらに、食事と一緒にEDGCBを摂取すると、最も食後血糖値上昇が抑えられました。
これらの知見を通し、コーヒーに含まれるクロロゲン酸類が効果的に食後血糖値を抑制することがわかり、飲料、レギュラーコーヒー、インスタントコーヒーなどでクロロゲン酸類を強化した製品開発への応用が可能です。

用語解説

1)AUC(曲線下面積)
本実験の場合、時間経過にともなう血糖値増加量の面積を指す。食品の血糖値上昇を比較する指標として用いられることが多い。AUCが低いことはすなわち吸収速度が緩やかになっていることを表し、その結果食後の急激な血糖の上昇を防いでいるといえる。血中のブドウ糖を体内で利用するためには膵臓からのインスリンを必要とするが、血糖の上昇が緩やかであれば、膵臓に負担をかけずインスリンを無理なく作用させていることを示している。

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