学術発表

コーヒー豆由来のアラビノガラクタンによるアレルギー抑制の可能性について報告

第22回国際コーヒー科学会議(ASIC)にて発表

UCC上島珈琲株式会社は神戸大学との共同研究により、コーヒー豆に含まれる水溶性の多糖類の一種であるアラビノガラクタンがアレルギー抑制効果を持つ可能性を確認しました。この研究成果を第22回国際コーヒー科学会議(ASIC)(2008年9月14日~19日 The Royal Palm Plaza Hotel⁄ブラジル カンピーナス)にて発表いたしました。

英文標題The effect of arabinogalactan from coffee beans in an allergic mouse model
和文標題アレルギーモデルマウスにおけるコーヒー豆由来アラビノガラクタンの効果
著者名古屋恵子、岩井和也、後藤田(西村)奈々香、福永泰司、木村良太郎、中桐 理(UCC上島珈琲)、髙木道浩(神戸大 農、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
概要コーヒー豆由来の多糖類アラビノガラクタン(AG)がアレルギーに対しどのような効果を示すか確認するため、アラビノガラクタン(2.5mg⁄日)を経口摂取させたマウスに2,4,6-トリニトロクロロベンゼン(TNCB)を塗布して皮膚炎を誘導し血中IgE、炎症部位のマスト細胞数、脾臓細胞からのサイトカイン産生等を調べた。アラビノガラクタンを摂取させたマウスでは炎症誘導後26日目の血中IgEが水のみを摂取させた対照群よりも低くなった。また炎症誘導部位のマスト細胞を比較するとアラビノガラクタンを摂取させた群の方が数は減少していた。また最終日に脾臓細胞を回収しコンカナバリンAにより刺激した場合、アラビノガラクタンを摂取させた群の脾臓細胞上清中のインターフェロン-γは有意に増加した。これらのことからアラビノガラクタンの経口摂取はTh-1免疫応答の増強を介してTh-2免疫応答を抑制する可能性が示唆された。

研究の背景、目的

免疫とは

免疫とは体内に侵入した病原体などの異物から体を守るための防御反応であり、細胞性免疫と体液性免疫にわけられます(図1)。細胞性免疫は感作リンパ球と呼ばれる細胞が直接異物を攻撃する一方、体液性免疫は抗体が異物と結合することで速やかに体内から除去されるように働きます。これらの反応は免疫に関わる細胞のヘルパーT(Th)細胞により制御されており、Th-1細胞は細胞性免疫を、Th-2細胞は体液性免疫をコントロールしています。通常はTh-1とTh-2はそれぞれが制御しあいバランスを取り合っていますが、免疫がTh-1に偏った場合、ガンや感染症に対する反応が高まります。一方Th-2に偏った場合はTh-1の反応応答が弱まり、感染症にかかる危険性が高まると共にアレルギーを発症しやすい状態になると考えられます。

図1. 免疫バランス

アレルギー

アレルギーとは免疫が抗体を介した防御反応であるTh-2に偏り、外部から侵入した特定の抗原に対して過敏に反応してしまう状態をいいます。アレルギー状態では、T細胞を経由して抗原の情報を受け取ったB細胞からIgEという抗体が多量に産生されます。IgEはマスト細胞と呼ばれるさまざまな種類の生理活性物質を蓄えた細胞と結合し、この状態で再び異物が進入すると、細胞表面にあるIgEに抗原が結合することでマスト細胞から生理活性物質が放出され、アレルギー症状が起こります(図2)。

図2. アレルギー発症の流れ

コーヒー豆由来アラビノガラクタンと免疫

コーヒー豆の約50%は厚い細胞壁に覆われ、その細胞壁は多糖類という食物繊維の一種で構成されています。これまでに我々はコーヒー豆由来の多糖類アラビノガラクタン(AG)がTh-1の免疫反応を高める事を報告しましたが、もう一方のTh-2免疫の過剰な反応であるアレルギーへの効果は未知でした。そこで今回アラビノガラクタンがTh-1増強を介して免疫バランスを調整し、アレルギーを抑制する可能性があるかを検討しました(図3)。

図3. アレルギーとアラビノガラクタン

研究概要

(1)アレルギー誘導マウスの血中IgE抗体量の変化について

1日あたり2.5mgのアラビノガラクタンを摂取させたマウスに人工的なアレルギー状態(皮膚炎)を誘導し、血中のIgE抗体量の変化を確認しました(図4)。水だけを摂取させた対照群よりもアラビノガラクタンを摂取させた群の方がIgE抗体量は少なくなりました。

図4. 血中IgE抗体量の経時変化 平均値±標準誤差(n=9 or 10)

(2)炎症部位のマスト細胞数

異物が体内に再侵入した時、IgE抗体と結合したマスト細胞が生理活性物質を放出することで炎症が起こります。そこで炎症を誘導した部位の組織切片を染色してマスト細胞数を比較したところ、アラビノガラクタンを摂取させた群ではマスト細胞数が少なくなっていました(図5)。

図5. 炎症部位におけるマスト細胞数 平均値±標準誤差 (n=9 or 10)

(3)脾臓細胞からのインターフェロン(IFN)-γ産生

アレルギーを誘導したマウスの脾臓細胞(免疫に関わる細胞)を回収し、試薬により刺激した細胞上清中のインターフェロン-γを測定しました。インターフェロン-γが多いほどTh-1免疫応答が増強されているといえます。今回も以前の報告と同様アラビノガラクタンを摂取させた場合、インターフェロン-γが有意に増加しました。(図6、p<0.05)

図6. 脾臓細胞からのインターフェロン-γ産生量 平均値±標準誤差(n=3)

まとめ

今回アラビノガラクタンを摂取させたマウスでは血中IgE抗体量やマスト細胞数の減少が見られ、脾臓細胞からのインターフェロン-γが有意に増加していました。このことからアラビノガラクタンはTh-1免疫の増強を介してTh-2免疫の過剰反応を抑制する可能性が示唆されました。

用語解説

1)多糖類

ブドウ糖など単糖分子が多数重合した糖のことで、例えば動物はブドウ糖が重合したデンプンを消化しエネルギー源とする。植物では細胞壁に多く含まれる。

2)アラビノガラクタン

主にアラビノースとガラクトースという単糖で構成される多糖類で、コーヒー豆の細胞壁に含まれる。

3)インターフェロン-γ

サイトカインと呼ばれる特定の細胞に情報伝達をする働きがあるタンパク質の一種。

4)抗体

特定の抗原を認識して結合するタンパク質。

5)抗原

免疫細胞上にある受容体に結合し免疫応答を導く物質を抗原といい、この中でも特にアレルギーを引き起こす物質をアレルゲンという。