近ごろ話題になることが多いコーヒーポリフェノールの健康効果ですが、まだまだ知られていないことがたくさんあります。
コーヒーと健康の関係を研究する2人の対談で、知られざるその実力をお伝えします。
岩井いまは一般的に使われている「ポリフェノール」という言葉ですが、最初に世に送り出したのは近藤先生なんですよね。
近藤当初は「フラボノイド」という言葉を使っていたのですが、これだと化学構造式を出して説明しなくてはいけないから、難しくなってしまう。それで、説明しやすい「ポリフェノール」という言葉を使ったら、流行語になるほど広まったんです。もう20年くらい前のことですが。
岩井そのころ、ポリフェノールの研究が急激に増えましたね。私たちもコーヒーのポリフェノール成分による健康効果の研究をしていましたが、コーヒーポリフェノールはしばらく置いてけぼりでした。
近藤そうそう、飲み物ではまず赤ワインが広まり、次がココア、お茶。その後、コーヒーが注目された。
岩井コーヒーと健康が結びつきにくい時代でしたから。そういう中で、ポリフェノールという言葉によって、コーヒーに健康イメージを持ってもらえるようになったと思います。
近藤コーヒーって、大好きな人がたくさんいますよね。1日に4~5杯飲むような。このように好まれるものは、絶対体にいいはずだと思って研究をしてきたんですよ。好きだから飲んでいるけど、本当は体に悪いかもしれないって思っているとしたら気の毒でしょう。コーヒーは悪くないと伝えたくて。
岩井そう言っていただけるのは、とてもうれしいですね。
近藤データを取ってみたら、コーヒーは含有量も多いし、よく飲まれているし、ポリフェノール摂取に大いに役立っていることがわかりました。これには僕自身もびっくりしたんですよ。
岩井ポリフェノールって、実は飲み物から最も摂取されていますが、あまり認識されていませんよね。
近藤野菜や果物から摂れると思われているし、僕もそう思っていたんですが、計算してみると思いのほか少なかった。もちろん野菜からはビタミンや食物繊維や、大切な栄養がたくさん摂れるけれど、ポリフェノールに関して言うと、その8割を飲み物から摂っているんですね。しかも日本人は、平均すると、その半分近くをコーヒーで補っているとわかった。だから、ポリフェノールの摂取のためには、コーヒーを無視してはいけません。
岩井近藤先生は、摂取量の目安はどのくらいとお考えですか。
近藤赤ワインのデータでは、1日1500mgのポリフェノールで体の酸化が抑えられるという結果が出ています。でも、1日1500 mg摂るのは難しい。
岩井なかなか摂れませんね。
近藤ポリフェノールには、大きく2つの働きがあって、1つめは活性酸素への作用です。私たちの体には抗酸化酵素があって、体を傷つける活性酸素を瞬時に打ち消しています。それとともに、食べ物から摂る「抗酸化物=ポリフェノール」が大きな役割を果たしていると考えられます。2つめは、コレステロールの持つLDLの酸化を防ぐ働きで、動脈硬化の改善に役立つということ。LDLコレステロールは、一般的に悪玉コレステロールと言われているものです。このLDLの酸化を防ぐには、ポリフェノールを1000 mg摂ればいいので、ひとまず1000 mgを目標にしようということにしました。
岩井もし野菜で摂ろうとしたら、大変な量になりますね。
近藤ジュースにしたものを何Lも飲んでようやく摂れるというくらいでしょう。コーヒー1杯を100mlとして1杯に平均200mg程度入っているから、5杯で摂れます。お茶なら1杯に100mgくらいだから、10杯必要。コーヒー3杯とお茶5杯で摂ってもいいし。
近藤このコーヒーポリフェノールの効果として、まず、動脈硬化に関しては、コレステロールのLDLを酸化させない、ということが重要なんです。この抗酸化に働くのが、ポリフェノール。
岩井それともう一つが、血糖値の上昇を抑える作用ですね。
近藤コーヒーを飲む人には糖尿病が少ないという傾向がわかったけれど、最初は理由がわからなかったんですよね。
岩井そこでUCCでは、コーヒーのポリフェノール成分である「クロロゲン酸」を取り出して、研究をスタートさせました。実験で、 コンビニのおにぎり2個と、UCCの缶コーヒーくらいの量のクロロゲン酸を同時に摂ってもらって血糖値を測定したところ、上昇が抑えられていました。
近藤摂るタイミングもありますね。
岩井そうですね。炭水化物と消化酵素がぶつかって、炭水化物が分解されるときにクロロゲン酸が登場して、消化酵素を働きにくくするので、食事と同時に摂ると最も血糖値を抑える効果を発揮します。そのため、食事をしながらコーヒーを飲むのがいちばん効果的という結果になりました。
近藤それと飲み方としては、1日に何回か飲むのがいいですね。ポリフェノールは、お茶のデータだと、飲んで2時間ほどで抗酸化作用が高まり、4時間ほどで消えてしまいます。だから1度に大量に飲むのではなくて、1日に何回かこまめに飲むことをおすすめします。
岩井特にドリップした淹れたてのコーヒーにこだわってほしいと思います。インスタントだとポリフェノール量が少ないものがありますから。淹れたてのおいしいコーヒーで、たっぷりポリフェノールを摂ってほしいですね。
近藤それぞれがおいしいと思う飲み方で、コーヒーポリフェノールの健康効果を取り入れるといいですね。
医学博士。東洋大学食環境科学部教授・お茶の水女子大学名誉教授。日本栄養・食糧学会会長。東京慈恵会医科大学卒業後、メルボルンのベイカー医学研究所へ留学。帰国後は国立健康・栄養研究所臨床栄養部室長等を経て、現職。赤ワインに含まれるポリフェノールの動脈硬化予防の効果をいち早く実証し、世界的な医学雑誌『Lancet』で発表している。
UCC上島珈琲株式会社 イノベーションセンター担当課長。社団法人全日本コーヒー協会科学情報委員会・委員長。農学博士。1996年UCC上島珈琲株式会社入社。2013年、日本食品科学工学会で「コーヒーに含まれるポリフェノールが食後の血糖値をおだやかにする効果について」を発表し、論文賞(Best Paper Award)受賞。展示会や学校でコーヒーに関する講演活動も行う。
コーヒーの基本から、美味しいコーヒーの楽しみ方まで幅広く学べます。
コーヒーの基本から、美味しいコーヒーの楽しみ方まで幅広く学べます。
対談が行われた「UCCコーヒーアカデミー」では、いつものコーヒーをちょっとおいしくしたい方、将来は自分でお店を持ちたいと考えている方など「体系的に」「段階的に」コーヒーのことを楽しく学んで頂ける講座を各種ご用意しています。コーヒービギナーの方なら「はじめてのコーヒーセミナー」などで、気軽に楽しくコーヒーの魅力を体験。本格的に学びたい方には、ベーシックからスペシャリストまでのコースをご用意。目的に合わせてコーヒーの知識を学べます。
酸素は私たちにとってなくてはならないものですが、酸素を使ったさまざまな代謝によって活性酸素が発生します。活性酸素は不安定な酸素で、体内の細胞や組織等を酸化して細胞や遺伝子を傷つけ、がんの一因にもなるといわれています。血液中では脂質と反応し、動脈硬化や心筋梗塞といった生活習慣病の引き金にもなります。ポリフェノールの代表的な効果は抗酸化作用で、活性酸素による酸化を防いでくれます。コーヒーのポリフェノールにも強い抗酸化作用があります。
活性酸素は、がん・生活習慣病を引き起こす元凶
活性酸素の発生と働きを抑制
ポリフェノールは、食事と一緒に摂取すると食後血糖値の上昇を抑える効果があります。炭水化物(スクロース)を与えたラットに、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸を多く含む脱カフェインコーヒー生豆抽出物を投与する試験を行ったところ、スクロース投与の30分前、同時、5分後の3つの時間帯では、スクロースと同時投与した場合が最も効果が高くなるということがわかりました。ですので、食事やデザートと一緒にコーヒーを飲むのがおすすめです。
心筋梗塞などの要因にもなる動脈硬化は、HDL(善玉コレステロール)とLDL(悪玉コレステロール)の2つのコレステロールが大きく関与しています。血管内にLDLが変化したコレステロールが蓄積し、それが血管を押しつぶすような格好になって、動脈硬化を引き起こすのです。日本大学生物資源科学部(前 防衛医科大学校抗加齢血管内科助教) 近藤 春美 講師によると、ポリフェノールはHDLが血管内にたまったコレステロールを引きぬく場所を増やす働きをもっていることもわかっています。