学術発表

コーヒー豆由来アラビノガラクタンが免疫機能を高めることを確認

第21回国際コーヒー科学会議(ASIC)、日本農芸化学会2007年度大会で発表

UCC上島珈琲株式会社は神戸大学との共同研究により、コーヒー豆に含まれる水溶性の多糖類の一種であるアラビノガラクタンに免疫機能を高める効果があることを確認しました。この研究成果を第21回国際コーヒー科学会議(ASIC)(2006年9月11日~15日 Agro.M⁄フランス モンペリエ)、日本農芸化学会2007年度大会(2007年3月25日~27日 東京農業大学⁄東京都 世田谷区)にて発表いたしました。

発表年月日2007.03.05
和文標題コーヒー由来のアラビノガラクタンによる免疫賦活作用
著者名後藤田奈々香, 岩井和也, 古屋恵子, 上田剛巳, 福永泰司, 木村良太郎 (UCC上島珈琲), 高木道浩 (神戸大 農)
資料名日本農芸化学会大会講演要旨集(Vol.2007 Page.115)
抄録▼目的
本研究ではコーヒー由来の多糖類アラビノガラクタン(AG)の機能性を検討する目的でin vitroにおいてマウス腹腔マクロファージ、脾細胞に対する増殖活性や、脾細胞、樹状細胞に対するTh-1系サイトカインの産生誘導活性の評価を行った。またin vivoにおいてコーヒーAGのマウス経口投与が血中のIL-12p40産生に及ぼす影響についても検討を行った。
▼方法と結果
BALB⁄cマウスより調製した脾細胞、腹腔マクロファージ、及び骨髄前駆細胞からGM-CSF、IL-4を用いて分化させた樹状細胞(BMDC)にコーヒーAGを添加培養し、増殖活性を検討した所、脾細胞、腹腔マクロファージにおいて増殖活性が有意に亢進した。また同細胞からのサイトカイン産生を検討した所、脾細胞ではIL-12p40産生が促進され、BMDCからはIL-12p40に加えてIFN-γの産生促進も認められた。さらにBALB⁄cマウスに1週間コーヒーAG含飲用水(2.5mg⁄日)を自由摂取させ、血中のIL-12p40産生を測定した所、無投与群に比べIL-12p40の有意な産生促進効果が示された。以上の結果よりコーヒーAGがTh-1免疫応答を亢進させる可能性が示唆された。

研究の背景、目的

コーヒー豆のおおよそ50%は厚い細胞壁に覆われ、その細胞壁は多糖類という食物繊維の一種で構成されています。これまで幾つかの植物由来の多糖類に関して、乳酸菌の増殖効果、コレステロール低下作用、免疫機能を高める作用等の報告がなされてきましたが、コーヒー豆由来の多糖類の生物活性については明らかにされていませんでした。今回、コーヒー豆に10%以上含まれる水溶性多糖類アラビノガラクタンについて注目し、アラビノガラクタンに免疫機能を高める作用があるのではないかと考え、検証を行いました。

研究概要

1)アラビノガラクタンのマウス脾細胞、および腹腔マクロファージにおける増殖促進作用

免疫システムに関して、生体内で重要な役割を担っている内臓器官として脾臓(ひぞう)、そして大型のアメーバ状の細胞で、組織内部に分布するマクロファージがあげられます。我々はマウスから脾臓細胞、腹腔マクロファージを調製しました。調製した各細胞にアラビノガラクタンを添加して培養を行い、一定時間培養した後、それぞれの細胞がどれ位増殖したか調べました(図1A、B)。

図1A、B. アラビノガラクタン添加培養による脾細胞(A)と腹腔マクロファージ(B)の増殖(平均値±標準偏差 *p<0.05)

図1Aは脾内臓細胞、Bは腹腔マクロファージにアラビノガラクタンを添加培養した場合の増殖度合いを示しています。
0.125-0.5μg⁄mLの濃度のアラビノガラクタンが存在すると各細胞はコントロールに対して有意に増殖度合いが増えました。すなわち、アラビノガラクタンは生体防御に関する重要な臓器である脾臓の細胞、およびマクロファージを活発化させることがわかりました。

2)アラビノガラクタンによる骨髄由来樹状細胞のIL-12(A)、IFN-γ(B)の産生

続いて、同じく生体の防御において非常に重要な細胞である樹状細胞を用いてアラビノガラクタンの効果を評価しました。名が示すとおり、枝のような突起を四方八方に突き出すこの細胞は、自分が取り込んだ細菌やウイルスなど「こんな物質がある」と免疫系の細胞に教える役割があります。

我々は、マウスの骨髄から樹状細胞を調製し、0.25μg⁄mlの濃度のアラビノガラクタンを添加して培養を行いました。一定時間アラビノガラクタンを添加培養した後、樹状細胞が分泌したサイトカイン(IL-12、IFN-γ)量を測定しました(図2A、B)。(平均値±標準偏差 **p<0.01)

図2AはIL-12、BはIFN-γの定量結果を示しています。骨髄由来の樹状細胞を、0.25μg⁄mlの濃度のアラビノガラクタンとともに培養すると、IL-12、IFN-γの産生量がコントロールに対して有意に増加したことがわかりました。これらのサイトカインは免疫反応に重要な役割を果たしており、IL-12、IFN-γが増えるということは生体防御システムが活発になっていることを示すものです。

図2A、B. アラビノガラクタンによる骨髄由来樹状細胞のIL-12(A)、IFN-γ(B)の産生(平均値±標準偏差 **p<0.01)

3)アラビノガラクタン摂取によるマウス血清中のIL-12産生

さらに、一日当たり2.5mgのアラビノガラクタンを含む水をマウスに一週間摂取させ、その後、血液を採取、血清を回収し、IL-12の産生量を測定しました(図3)。

図3. アラビノガラクタン摂取によるマウス血清中のIL-12産生(平均値±標準偏差 **p<0.01)

図3はマウスにアラビノガラクタンを摂取させた場合のIL-12の産生量を示しています。一日あたり2.5mgのアラビノガラクタンを一週間摂取すると血清中IL-12の量が水だけを摂取させたコントロールに対して有意に亢進したことがわかりました。

まとめ

本検証で、アラビノガラクタンが脾細胞と腹腔マクロファージの増殖を高め、免疫系を高めるサイトカインであるIL-12やIFN-γの産生を活性化させる可能性が示唆されました。さらに、アラビノガラクタンの経口摂取がマウス血清中のIL-12レベルを増強させることが示され、アラビノガラクタンが免疫機能を高める作用を持つ可能性が高いことがわかりました。

用語解説

1)多糖類

多糖類とは、ブドウ糖など単糖分子が多数重合した糖のことで、例えば動物はブドウ糖が重合したデンプンを消化しエネルギー源とする。しかし消化酵素で消化されない多糖も多く、これらは食物繊維として扱われる。

2)アラビノガラクタン

主にアラビノースとガラクトースという単糖で構成される多糖類で、コーヒー豆の細胞壁に含まれる。人間の消化酵素では分解されない。

3)マクロファージ

白血球の1種で、免疫システムの一部をになう細胞であり、生体内に侵入した細菌、ウイルス、又は死んだ細胞を捕食し消化する。

4)サイトカイン

特定の細胞に情報伝達をする働きがあるタンパク質。多くの種類があるが特に免疫、炎症に関係したものが多い。