学術発表

コーヒー抽出・飲用時の気持ちについて報告

第25回日本感性工学会大会にて発表

UCC上島珈琲株式会社は、コーヒーの抽出・飲用時の気持ちについて研究しました。この研究成果は第25回日本感性工学会大会(2023年11月20日~11月22日 タワーホール船堀)にて口頭発表しました。

発表年月日2023.11.21
英文標題Study on emotion during coffee brewing using kansei analyzer and questionnaire
和文標題感性測定とアンケート評価によるコーヒー抽出時の情動に関する研究
発表者名垣内 美紗子、半澤 拓、福永 泰司、髙畑 理(UCC上島珈琲株式会社)
平林 雄太、篠塚 真仲(株式会社電通サイエンスジャム)
資料名
概要【背景・目的】
レギュラーコーヒーは抽出方法や使用器具により様々な味わいを得られることが特徴のひとつで、飲用する以上に抽出操作自体も消費者の楽しみといえる。また、消費者がコーヒーを飲用する際は、味や香り・身体的な健康効果以外にも、リラックス効果やストレス軽減などの心理的効果も同様に期待されている。
そこで、仕事の合間の休憩・気分転換にコーヒーの飲用や抽出操作がもたらす効果を検証するため、デスクワーク中およびその合間のコーヒーを準備および飲用する休憩時間中の脳波を測定し感性データを取得した。

【方法】
本試験はヘルシンキ宣言に準拠し、計画段階で倫理審査委員会による審査を受けた(承認番号2022021)。一般公募により集められた40名の男女(21-58歳。男性20名、女性20名)を対象とした。被験者は頭部に脳波測定デバイスを装着した状態で、5分間の計算作業を含むワーク(クレぺリンテスト)を2セット実施した。前後のワークの間に、A.レギュラーコーヒーの抽出を行い、抽出したコーヒーを飲む(以下「抽出あり」)、B.すでに抽出されたレギュラーコーヒーを飲む(以下「抽出なし」)、のいずれかの操作を含む任意の時間の休憩を取った。なお、コーヒーの抽出方法としては家庭でも最も一般的な抽出方法のひとつであるハンドドリップ抽出を採用した。試験はクロスオーバーデザインとし、連続して2日間実施した。
休憩中およびワーク中に測定した脳波から、感性アナライザの3指標(集中度、ストレス度、リラックス度)、Valence-Arousal アナライザの2指標(Valence;ポジティブ度、Arousal;活性度)の計5指標を取得した。また、試験実施後には休憩中に感じられた気持ちについてアンケートを実施した。

【結果】
休憩前後のワーク中の感性値は、「抽出あり」・「抽出なし」のいずれの休憩を経た場合でも、1回目(休憩前)と比較して2回目(休憩後)のワークでストレス度が有意に軽減されており、コーヒー飲用によるストレス軽減の効果が確認された。さらに、「抽出なし」の休憩を経た場合は2回目(休憩後)のワークで集中度が有意に低下していたが、「抽出あり」の休憩では集中度の低下は見られなかった。コーヒー抽出を含む休憩を取ることで連続したワークでの疲労感を緩和できたものと考えられる。
さらに、試験後のアンケートより、コーヒー飲用時に「幸せ」を感じたとする被験者において、休憩直後のリラックス度、Valenceの値が高くなっており、ワークにおける正答率も維持されていた。この結果より、コーヒーの飲用時に肯定的な気持ちを感じることで、休憩の質がより高まる可能性が示唆された。

研究の背景、目的

コーヒーの飲用

コーヒーは日常的に飲用される代表的な嗜好飲料です。近年、家庭や職場でのコーヒー需要が高まりを見せています。
その中でも広く流通しているレギュラーコーヒーは、焙煎されたコーヒー豆、もしくは焙煎されたコーヒー豆を砕いて粉にしたものを指します。飲用前に抽出操作を伴いますが、同じコーヒー豆からでも抽出方法や使用する器具によって様々な味わいのコーヒーを得られることが特徴のひとつです。
レギュラーコーヒーの抽出は、香りが広がるコーヒー豆の粉砕やドリップ操作など、抽出する工程にも楽しみがあります。コーヒーには飲用することによる身体的な健康効果が知られていますが、消費者がコーヒーを飲用する際は、リラックス効果やストレス軽減などの心理的効果も同様に期待されています。

そこで、本研究では、最も一般的な抽出方法のひとつであるハンドドリップ抽出に着目し、仕事の合間の休憩・気分転換にコーヒーの飲用や抽出操作がもたらす効果を調査することとしました。

脳波測定デバイスと感性値の取得

本研究では、ヘッドギア型の脳波測定デバイス(図1)を使用して脳波データを測定しました。装着することで場所を選ばずにリアルタイムでの測定が可能です。感性値の取得には、株式会社 電通サイエンスジャムの感性アナライザとValence-Arousalアナライザを用いました。
感性アナライザでは、脳波計より取得した脳波データから感性の分析が可能です。Valence-Arousalアナライザでは、ラッセルの「Valence」と「Arousal」2軸の値を脳波から推定し、感情の変化を2次元 (ラッセルの感情の次元モデル)で表す事ができます。

本試験では、感性アナライザの3指標(集中度、ストレス度、リラックス度)、Valence-Arousal アナライザの2指標(Valence;ポジティブ度、Arousal;活性度)の計5指標を取得しました。

図1. 脳波測定デバイス

研究概要

被験者

被験者は公募により集められた40名の男女(21-58歳。男性20名、女性20名)で構成され、事前に試験内容を説明しインフォームド・コンセントを得ました。
なお、本試験はヘルシンキ宣言に準拠し、計画段階で株式会社電通サイエンスジャム内に設けられた倫理審査委員会による承認を受けました(承認番号2022021)。

コーヒーに関連する被験者の属性を図2に示します。

試験の流れ

試験の流れを図3に示します。被験者は頭部に脳波測定デバイスを装着した状態で、5分間のワーク(計算問題)を2セット実施しました。ワーク2セットの間に、A.レギュラーコーヒーの抽出を行い、抽出したコーヒーを飲む(以下、「抽出あり」)、B.すでに抽出されたレギュラーコーヒーを飲む(以下、「抽出なし」)、のいずれかの操作を含む任意の時間の休憩を取りました。試験の様子を図4に示します。試験はクロスオーバーデザインとし、連続して2日間実施しました。

図3. 試験の流れ
図4. 試験の様子

コーヒー抽出

コーヒー抽出は一般的なハンドドリップを採用しました。
被験者には抽出の解説動画(図5)を事前に共有し、レシピ、使用器具を十分に理解した上で試験に臨むよう指示しました。

図5. 解説動画で示したハンドドリップ抽出手順(抜粋)

事後アンケート

試験実施後、被験者に「コーヒーを抽出しているとき」、「コーヒーを飲んでいるとき」、「コーヒーを飲み終わったとき」の気持ちを問う事後アンケートを実施しました。

<内容> 以下16項目よりあてはまるもの全てを選択
心地よい、幸せ、楽しい、満たされた、おどろき、ストレスだ、めんどうだ、不安だ、集中する、ワクワクする、リラックスする、眠い、すっきり、飲みたい、緊張する、やる気が出る

結果

A.レギュラーコーヒーの抽出を行い、抽出したコーヒーを飲む(以下、「抽出あり」)、B.すでに抽出されたレギュラーコーヒーを飲む(以下、「抽出なし」)の2グループについて、感性値の測定結果を比較しました。ワーク中の感性値(全被験者平均, n=40)を図6に示します。

レギュラーコーヒー飲用の効果
「抽出あり」・「抽出なし」いずれの休憩を経た場合でも、コーヒー休憩後のワークでストレス度は有意に低下しました。この結果より、コーヒー飲用によるストレス軽減の効果が確認されました。

ハンドドリップ抽出の効果
「抽出なし」の休憩を経た場合は2回目(休憩後)のワークでの集中度が有意に低下し、Valence(ポジティブ度)が有意に上昇していましたが、「抽出あり」での休憩ではこのような変化は見られず、維持されました。この結果より、ハンドドリップ抽出を含む休憩を取ることによる、連続したワークの疲労感緩和が示されました。

図6. ワーク中の感性値(平均値±標準偏差, n=40)

コーヒー飲用中、飲用後に「幸せ」を感じた人は…
コーヒー飲用自体の効果については、「抽出あり」・「抽出なし」グループの測定結果をあわせて解析しました。
事後アンケートの結果、約半数が、コーヒーを飲んでいるとき、飲み終わったときに 「幸せ」な気持ちだったと回答しました(図7)。そこで、それぞれの段階で「幸せ」を感じたかどうかに着目し、ハンドドリップ中の感性値とワーク効率を確認しました。

図7. 事後アンケート結果

ワーク中の感性値については、コーヒーを飲んでいるときに「幸せ」を感じたとする場合、休憩直後のValence(ポジティブ度)、リラックスの値が高くなっていました。(図8)

図8. ワーク中の感性値 (アンケート “飲用中の気持ち” よりグルーピング)

ワーク効率については、コーヒーを飲み終わったときに「幸せ」を感じなかったとする場合に正答率が下がったのに対して、「幸せ」を感じたとする場合では正答率が変わらず、ワーク効率が維持されました。(図9)

図9. ワーク効率(アンケート “飲用後の気持ち” よりグルーピング)

以上の結果より、コーヒーの飲用中、飲用後に肯定的な気持ちである「幸せ」を感じた場合では、休憩の質がよいことがわかりました。

まとめ

本研究により、レギュラーコーヒーのハンドドリップ抽出と飲用はワーク間の休憩として効果的であることが明らかになりました。また、コーヒーを自身で抽出する・しないに関わらず、休憩中のコーヒー飲用において「幸せ」を感じた場合で効果が高い結果でした。コーヒー休憩は、気分転換、ワークパフォーマンスの維持に繋がる可能性があります。
今後、コーヒーの種類や抽出方法ごとの効果などさらに検討を重ねることで、休憩時間をより充実させるためのコーヒーの活用方法や目的に合ったコーヒー飲用方法など、コーヒーの可能性を探求・提案していきたいと考えます。

用語解説

ラッセルの感情の次元モデル

1980年に「A circumplex model of affect.」として、James A Russellによって提唱された感情の次元モデル。ラッセルのモデルは、ポジティブ-ネガティブを示す「Valence」と、活性-不活性を示す「Arousal」という2軸から構成されており、その2次元上に喜怒哀楽に関わる様々な感情がプロットされている。