おいしいコーヒーの淹れ方

スペシャルティコーヒーについて

「スペシャルティコーヒー」という表現は、1970年代にアメリカで最初に使われはじめました。

特別な気象・地理条件が生み出すユニークな香気を持つコーヒーをスペシャルティコーヒーととらえ、世界的においしいコーヒーを追求していく今日のムーブメントにまで成長しています。

種子からカップまで

スペシャルティコーヒーの定義では「from seed to cup」というキーワードが登場します。
コーヒーの生産からのすべてのプロセスを、文字通り「種子(seed)からカップ(cup)まで」徹底して突き詰めていくということです。

日本スペシャルティコーヒー協会が定める「スペシャルティコーヒーの定義」の中では、次のように記載されています。
「カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階に於いて一貫した体制・工程で品質管理が徹底している事が必須である。(from seed to cup)」

(出典:SCAJ「スペシャルティコーヒーの定義」より抜粋)

スペシャルティコーヒー 3つの要素

安心かつ安全なおいしいコーヒーを継続的に飲むために、生産国から消費国まで社会全体で以下の3つの要素の重要性が叫ばれています。

サスティナビリティ(sustainability) サスティナビリティとは、「持続可能性」のことを指します。
品質の優れたコーヒーを安定的、継続的に生産していくために、生産現場において、環境、社会問題、経済等を配慮することが大切になります。
クオリティ(quality) クオリティとは「コーヒー豆の品質」をのこと指します。
特別な地理的・気象的条件、栽培技術、精製処理技術により、さらに優れたコーヒーの抽出液の風味を持っていることが重要視されます。
インフォメーション(information) インフォメーションとは「コーヒーのカップの中のおいしさを消費者に正しく伝えること」です。
近年、食の安全性が注目され、消費者のトレーサビリティ(traceability=追跡可能な、遡及性)への関心が高まる中、コーヒー農園の栽培環境や栽培状況、肥料、農薬の種類、流通経路情報など、製品の情報を正しく伝えることの重要性が増しています。

スペシャルティコーヒーの品質とは

スペシャルティコーヒーの評価基準は、各国の協会で決められています。
世界共通の定義は定まっていないのが現状ですが、トレーサビリティが明確でカップ評価が高いものがスペシャルティコーヒーと称され、コモディティコーヒー(通常流通品)と区別されることは世界共通の考え方と言えるでしょう。

スペシャルティコーヒーの評価基準

カップ評価は、フレーバー、アフターテイスト、酸味の質、マウスフィール、カップのきれいさ、甘さ、バランス、総合評価などにより100点満点で評価されます。
SCAカッピング基準では、上図のように、80~85点未満を「スペシャルティグレード」、 85~90点未満を「スペシャルティ・オリジン」、90点以上を「スペシャルティ・レア」と格付けしています。

評価のポイント

スペシャルティコーヒーの品評会において、味や品質を評価するためにテイスティングすることをカッピングと言います。
カッピングをする人=「カッパー(cupper)」が専用のスプーンを使って味と香りを鑑定します。

スペシャルティコーヒーは、そのコーヒーの風味や個性等、味の良さに特化したポジティブチェック方式で評価します。
実際にコーヒーとして提供される時に近い状況で評価するため、焙煎度、粉の挽き目、お湯の温度、お湯と粉の比率など、実際の抽出のベストの状態が定義されています。

香り コーヒーには様々な「香り」があります。粉の香り(フレグランス)、抽出液から立ちのぼる香り(アロマ)、飲む時に味と同時に感じる香り(フレーバー)の3つの側面から評価します。

コーヒーの味と香りの代表的な表現を図にしたものがフレーバーホイール(Coffee Taster's Flavor Wheel)です。
SCA(スペシャルティコーヒー協会)とWCR(ワールド・コーヒー・リサーチ)が作製し、フレーバーのイメージに合わせた色分けをしながら、ホイール状にまとめています。
酸味 スペシャルティコーヒーにとって、味わいを構成する最も重要な要素。
明るく心地良い酸味は、コーヒー果実に含まれる本来の酸味を感じさせる、良いコーヒーとして評価されます。
この酸味成分は、標高が高く、気温差の大きい栽培条件において強くなる傾向があります。
ボディ コーヒーを口に含んだ時に感じる舌触りや味の厚み・複雑さのことをボディといいます。
いわゆる「コク」のことで、酸味と並びコーヒーの味を構成する上で重要な要素です。
酸味とボディが形成される過程や要因は、栽培条件など共通項が多く、相関する場合が多いです。
アフターテイスト コーヒーを飲んだ後に感じる余韻のことを指します。
アフターテイストにはコーヒーの特徴的な味わいが出やすく、余韻が長ければ長いほどコーヒーの豆本来が持つ力強さが表れます。
したがってアフターテイストもボディとの相関関係が強いです。
バランス 「フレーバー」「酸味」「ボディ」が調和しているか、またはそれぞれの要素の強弱を評価(採点)します。
どれか一つが突出していたり、逆に何かが欠けていたりすることなく、全体としての調和が取れていて初めて心地良いバランスと評価されます。

「フレーバーホイール」について《SCA Coffee Taster’s Flavor Wheel》

下記の図は、スペシャルティコーヒー協会(SCA)が作成した、コーヒーの風味の種類をチャート化した「フレーバーホイール」です。
例えば、「フルーティーな味わい」と言っても、ベリーやドライフルーツ、シトラスなどに細分化されるなど、風味の特徴表現をより具体的に表しています。

出典:Specialty Coffee Association

スペシャルティコーヒーの潮流「サードウェーブ」

コーヒー業界における「サードウェーブ(第三の波)」とは、産地・農園のユニークな特徴を生かしたスペシャルティコーヒーを、焙煎・抽出にもこだわって楽しむ潮流のことです。
アメリカから始まったサードウェーブは近年、コーヒーカルチャーのムーブメントとして注目を浴びました。

90年代より、それまでの低価格コーヒーへの反動から、注目を集めるようになったスペシャルティコーヒー。
それぞれの豆の個性を見極めてローストを施し、その個性を最大限に引き出すように抽出されたスペシャルティコーヒーは、クリーン且つ風味豊かで、さらに明るい酸味が高く評価されるようになっていったのです。
昨今、インターネットオークションや、産地から直接買える方法が確立され、コーヒーの流通が多様になってきたことも、このムーブメントを支える一つの特徴といえるでしょう。

アメリカのコーヒーカルチャーの流れ

「サードウェーブ」と呼ばれるコーヒーブームは、アメリカ、そして日本のコーヒーカルチャーの変遷と深い関わりがあります。

ファーストウェーブは、1900年代に入り、アメリカの大手コーヒーメーカーが真空パックの技術を取り入れたことで大量生産・大量流通が可能になり、急速に一般家庭にコーヒーが浸透して行った時期にあたります。
しかし、価格競争の結果、品質の低下が顕著になり、市場のコーヒー離れが問題になりました。その反動から90年代より品質を重視した深炒りのムーブメントが起こり、シアトル系と呼ばれるコーヒーチェーンが世界中に広がったのがセカンドウェーブです。

そして新たに3つ目のムーブメントとして、近年注目されるようになってきたのが、脱チェーン、脱マニュアル、脱効率化でスローフード路線のサードウェーブです。

産地・農園の特徴を生かしたスペシャルティコーヒーを焙煎・抽出にこだわりながら楽しむサードウェーブでは、一杯一杯、ハンドドリップで丁寧にコーヒーを淹れるのが特徴的です。
実はこのサードウェーブ、日本の喫茶文化に深く影響を受けていると言われています。豆にこだわり一杯ずつおいしいコーヒーを提供するおもてなしの心は、古くから日本の喫茶文化で培われているものです。
ですから、日本人にとって、サードウェーブは日本の喫茶文化の原点回帰とも言えるのかもしれません。