学術発表

エスプレッソのタンピング圧力がスペシャルティコーヒーの香り成分に与える影響について報告

第7回国際フードファクター会議(ICoFF)にて発表

UCC上島珈琲株式会社は、エスプレッソのタンピング圧力がスペシャルティコーヒーの香り成分に与える影響について研究を行いました。この研究成果は、第7回国際フードファクター会議(ICoFF)(2019年12月1日~12月5日 神戸コンベンションセンター/兵庫県神戸市)にて発表しております。

発表年月日2019.12.4
英文標題Effect of tamping force on aroma components in specialty espresso coffee
和文標題エスプレッソのタンピング圧力がスペシャルティコーヒーの香り成分に与える影響
著者名岩井和也、松山将太、垣内美紗子、有木真吾、福永泰司(UCC上島珈琲株式会社)
資料名
抄録【背景・目的】
 近年、サードウェーブコーヒーのブームと共に日本でも「バリスタ」という言葉が広く知られるようになり、競技会の世界ではエスプレッソへの注目も年々高まっている。本研究では、エスプレッソ抽出に特有な「タンピング」という工程に着目し、タンピングの圧力がスペシャルティコーヒーのエスプレッソにどのように影響するかを調査した。

【方法】
 スペシャルティコーヒー(ホンジュラス エルプエンテ ゲイシャ種)を中炒に焙煎し、細挽きに粉砕した。粉砕したコーヒーを金属ホルダーに充填し、タンピングマシン(PUC Press)を用いて10, 20, 30kgの圧力でタンピングしたのちエスプレッソマシンで抽出した。得られた抽出液は各分析に供試した。

【結果】
 エスプレッソに含まれる香り成分のうち、タンピング圧力の影響を受ける成分とその挙動が明らかになった。

研究の背景、目的

バリスタ競技会

近年、サードウェーブコーヒーのブームと共に、日本でも「バリスタ」という言葉が広く知られるようになりました。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が主催するジャパン バリスタ チャンピオンシップ(JBC)は日本一のバリスタを決める競技会であり、2018年大会の準決勝にはUCCグループの選手も出場しました。競技会において、選手には、おいしいコーヒーカップを提供するだけではなく、科学的な根拠のあるプレゼンテーションも求められます。UCCでは、エスプレッソのおいしさを科学的視点から探るべく、研究を行いました。

エスプレッソ抽出の工程

エスプレッソ抽出では、専用のマシンを使用して、細かく挽いたコーヒーに高い圧力をかけて濃厚なコーヒー液を得ます。一般的に、エスプレッソは次の工程に従い抽出します。
 1)焙煎コーヒーの粉砕
 2)金属ホルダーにコーヒーを充填、タンピング
 3)専用のマシンを使用して抽出
中でも「タンピング」は、金属ホルダーに充填したコーヒーに均一な圧力をかけて押し固める工程(図1)で、エスプレッソマシンによる抽出挙動に大きく影響します。

本研究では、エスプレッソ抽出に特有な「タンピング」という工程に着目し、タンピングの圧力がエスプレッソの香り成分にどのように影響するかを調査しました。また、検証には競技会で使用されるスペシャルティコーヒー を使用しました。

バリスタ競技会の様子 (2018 JBC)
図1)「タンピング」とは?

研究概要

方法

コーヒーサンプル
 スペシャルティコーヒー(ホンジュラス エルプエンテ ゲイシャ種)

コーヒーの焙煎
 焙煎機(Pro V3 IKAWA)を用いて中炒に焙煎した

コーヒーの粉砕
 グラインダー(EK43)を用いて細挽きに粉砕した

タンピング
 タンピングマシン(PUQ Press, 図2)を用いて10, 20, 30kgの圧力でタンピングした

抽出条件(表)
 エスプレッソマシン(VA388 Black Eagle)を用いて抽出した
 得られたエスプレッソ抽出液は各分析に供試した

図2) PUQ Press
表)抽出条件

分析項目

香り成分(GC-MSにて分析)

結果

香り成分を分析した結果、タンピング圧力による香り成分の変化には3つのパターンがあることが明らかになりました。

1. タンピング圧力が高いほど増加するパターン(図3A)

タンピング圧力0kgと比較して30kgでは、焙煎風味で知られる4-メチルピリジンが300%に増加しました。また、2-ヘプタノンや2-ホルミル-1-メチルピロールなど7種類の揮発性成分もタンピング圧力が高いほど増加しました。

2. タンピング圧力10kgまたは20kgでピークとなるパターン(図3B)

タンピング圧力10kgでピークとなったのは、ロースト香の1-(3-メチル-2-ピラジニル)エタノンと、草のような香りのヘキサナールでした。また、タンピング圧力20kgでピークとなったのは、ココナッツ香の5-アセチルジヒドロ2(3H)フラノンとキャラメル香のフラネオールでした。

3. タンピング圧力が高いほど減少するパターン(図3C)

タンピング圧力を高くするにつれて、4つの揮発性化合物(4-シクロペンテン-1,3-ジオン、2.3-ジヒドロフラン、5ヒドロキシメチルフルフラール、(1H)-ピロール)はタンピング圧力0kgと比較して約70%〜75%に減少しました。「焦げた」または「土のような」ネガティブな香りの2-メチル-2-シクロペンテオンは30kgのタンピング圧力で最も減少しました(タンピング圧力0kgと比較して66%)。

図3)香り成分の変化

まとめ

本研究では、エスプレッソ抽出に特有な工程であるタンピングに着目し、タンピング圧力がスペシャルティコーヒーのエスプレッソの香り成分に影響することを明らかにしました。ネガティブな香り成分の抽出を抑えながらポジティブな香り成分を最も引き出すタンピング圧力を見つけることが、香り高くおいしいエスプレッソ抽出のカギだと考えます。

用語解説

1)タンピング

エスプレッソ抽出における工程の一つ。金属ホルダーに充填したコーヒーに均一な圧力をかけ、コーヒーを押し固めます。均一に適切な圧力をかけることが、おいしいエスプレッソを抽出する上で重要です。

2)スペシャルティコーヒー

トレーサビリティが明確で風味が素晴らしい美味しさであると評価されるコーヒーのこと。コモディティコーヒー(通常流通品)とは区別されます。日本ではSCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)の評価基準に基づきコーヒーの液体の風味(カップ・クオリティ)により判別されます。

3)ジャパン バリスタ チャンピオンシップ(JBC)

日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が主催する、日本一のバリスタを決める競技会。「エスプレッソ」を通じた評価が基本となり、出場選手は決められた制限時間の中で3種類のドリンクを提供します。まず「エスプレッソ」、そして「ミルクビバレッジ」、最後に「シグネチャービバレッジ」と呼ばれる創作ドリンクを提供し、味覚評価だけでなく、その過程を含めて提供するまでの全ての作業内容の適切性、正確性、一貫性などが評価されます。