学術発表
UCC上島珈琲株式会社は、コーヒーの味わいと脳波の関連性について研究しました。この研究成果は日本官能評価学会2022年度大会(2022年11月20日 オンライン開催)と、第29回国際コーヒー科学会議(ASIC)(2023年9月11日~9月14日 メリア ハノイ ホテル/ベトナム ハノイ)にて口頭発表しました。
発表年月日 | (官能評価学会)2022.11.20 (ASIC)2023.9.11 |
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英文標題 | Evaluation of taste and aroma of coffee and its relation to electroencephalography using emotion analyzer |
和文標題 | 味わいが異なるコーヒーの味香り評価と感性アナライザによる脳波測定データの取得 |
発表者名 | 垣内 美紗子、半澤 拓、福永 泰司、髙畑 理(UCC上島珈琲株式会社) 平林 雄太、篠塚 真仲(株式会社電通サイエンスジャム) |
資料名 | — |
概要 | 【背景・目的】 コーヒーを飲むシーンや目的は人により様々である。働き方や在宅時間の過ごし方の多様化により、コーヒーに気分転換やリラックスといった心理的な役割も求められており、最近ではシーンや気分に合わせて選べるコーヒー製品もみられる。 本研究では、コーヒーの味香りが感性に与える影響を見出すため、味わいが異なる2種類のコーヒー(浅炒り・深炒り)において、官能評価による味わいデータと感性アナライザによる脳波データを取得した。 【方法】 2種類のコーヒー(浅炒り・深炒り)について、コーヒー評価の訓練を受けた社内パネル18名を対象とし味と香り各6項目について定量的記述試験法(QDA法)を実施した。また、同属性の社内パネル12名を対象としTDS法(4回繰り返し)を実施し、同時に感性アナライザの3指標(集中度、ストレス度、リラックス度)、Valence-Arousal アナライザの2指標(Valence;ポジティブ度、Arousal;活性度)の計5指標を取得した。 【結果】 QDA法およびTDS法の評価データより、2種類のコーヒーにおける味わいの違いを把握した。具体的には、QDA法では味6項目と香り5項目において有意な差が検出され(p<0.05)、TDS法ではコーヒー飲用時の味わいは香り(トップ~飲み込みまで)と味(中盤~後味)それぞれで特徴づけられた。また、脳波測定データより、2種類のコーヒー飲用時のConcentration; 集中度,Relax; リラックス度,Arousal; 活性度において有意な差が検出された(p<0.05)。以上より、コーヒーの味わいと感性の関連性が示唆された。 |
コーヒーは、品種・生産国・焙煎や粉砕、抽出の方法によりバリエーションに富んだ多様な味わいが生み出されます。
コーヒーを飲むシーンや目的は人により様々ですが、近年は、働き方や在宅時間の過ごし方の多様化により、コーヒーに気分転換やリラックスといった心理的な役割も求められており、最近ではシーンや気分に合わせて選べるコーヒー製品もみられます。
そこで、本研究では、コーヒーによって引き起こされる気持ちはコーヒーの風味によって異なるかを検証するため、味わいが異なる2種類のコーヒー(浅炒り・深炒り)において、官能評価による味わいデータと感性アナライザによる脳波データを取得しました。
本研究では、ヘッドギア型の脳波測定デバイス(図1)を使用して脳波データを測定しました。装着することで場所を選ばずにリアルタイムでの測定が可能です。感性値の取得には、株式会社 電通サイエンスジャムの感性アナライザとValence-Arousalアナライザを用いました。
感性アナライザでは、脳波計より取得した脳波データから感性の分析が可能です。Valence-Arousalアナライザでは、ラッセルの「Valence」と「Arousal」2軸の値を脳波から推定し、感情の変化を2次元 (ラッセルの感情の次元モデル)で表す事ができます。
本試験では、感性アナライザの3指標(集中度、ストレス度、リラックス度)、Valence-Arousal アナライザの2指標(Valence;ポジティブ度、Arousal;活性度)の計5指標を取得しました。
試験①では、今回の試験に用いた2種類のコーヒーについてQDA法により味わいを評価して違いを確認しました。
試験②では、飲用時の味わいと感性を同時に評価するため、TDS法による味わいの評価と脳波測定デバイスによる感性の評価をリアルタイムで同時に行いました。試験の様子を図2に示します。
それらの結果から、コーヒーの味わいと飲用時の感性について考察しました。
試験① コーヒーの味覚分析
コーヒーは、焙煎度、ブレンドの異なる2種類のコーヒー(A.浅炒り・B.深炒り)を用意しました。抽出は、コーヒー粉100gに対して湯量1600mL、コーヒーブリュワーBM1200(※現在は廃盤)で抽出しました。コーヒーA、Bの可溶性固形分(Brix)とpHを表1に示します。官能評価は、平時コーヒーの官能評価トレーニングに参加する社内専門パネル18名を対象としました。味6項目と香り6項目のQDA法を行いました。
試験② 飲用時の味わい×感性評価(リアルタイム)
本試験はヘルシンキ宣言に準拠し、計画段階で株式会社電通サイエンスジャム内に設けられた倫理審査委員会による承認を受けました(承認番号2022003)。
コーヒー豆の準備と抽出は試験①と同様の方法で行いました。
被験者はUCC研究所職員12名(内訳は男性6名、女性6名、25~47歳)、試験はクロスオーバーデザインとし、連続した2日間で、1サンプルにつき4回繰り返し実施しました。
味覚分析と感性データの取得は、コーヒーを飲用しながら、気持ちの測定と味の評価を同時にリアルタイムで実施しました。TDS法には、味・香り8項目(果実感、甘味、苦味、香ばしさ、穀物感、酸味、渋味、焦げ感)を官能特性として提示しました。
感性データについては、感性アナライザの3指標(集中度、ストレス度、リラックス度)、Valence-Arousal アナライザの2指標(Valence;ポジティブ度、Arousal;活性度)の計5指標を取得しました。
後日、試験に用いたコーヒーA、Bのどちらが好みかを中身を知らせずにコーヒーを提示し、飲用してもらいヒアリングしました。
QDA法による味・香りの評価
コーヒーA(浅炒り)は、「果実/花様の香り」「甘い香り」が特徴的で、「甘味」と「酸味」が際立つ味わいでした。コーヒーB(深炒り)は、「焦げた香り」が特徴的で、「苦味」や「濃厚感」が際立つ味わいでした。(図3)
以上より、コーヒー2種類の味わいの違いを確認したうえで、これらのコーヒーを試験②に使用しました。
TDS法による味わい評価
コーヒーA(浅炒り)は、飲用直後から10秒で果実感を感じ、10秒後から酸味や甘みなど様々な味を複雑に感じ、30秒後からほのかに後味の苦味を感じる味わいでした。
コーヒーB(深炒り)は、飲用直後から10秒で焦げ感を感じ、10秒以降は苦味を支配的に感じる単調な味わいでした。(図4)
以上より、コーヒーAとコーヒーB飲用時の味わいは、トップから飲み込むまでの間で香りを感じるタイミングと、中盤から後味までの味を感じるタイミング、それぞれで特徴づけられました。
脳波測定デバイスによる感性評価
安静時と比較したコーヒー飲用時の感性指標の変化を図5に示します。
コーヒーを口に含んでから35秒まで(=トータルの平均)では、評価指標のうち「集中度」、「リラックス度」はコーヒーBで、「Arousal(活性度)」はコーヒーAで有意に高い結果でした。
さらに、香りを感じるタイミングの<飲み始め(0~10秒)>、味を感じるタイミングの<中盤(11~35秒)>、それぞれで感性値を平均し比較しました。その結果、<飲み始め(0~10秒)>においては、「集中度」のみで有意差が確認されました。<中盤(11~35秒)>においては、「集中度」「リラックス度」「Arousal(活性度)」で有意差がみられました。
以上、試験①②の結果より、味わいの異なる2種類のコーヒーを飲んだ際の感性値に違いが見られたことより、コーヒーの味わいと誘起される気持ちの関連性が示唆されました。
本研究では、コーヒーによって引き起こされる気持ちはコーヒーの風味によって異なることが明らかになりました。要因となるコーヒーの風味とは、具体的に、香りの質(フローラル・スモーキー…)や味強度(苦味の強さ・酸味の強さ)の違い、印象的な味わい品質の偏り(味わいの単調さ・複雑さ)があげられます。また、副次的な要素としては、味そのものでなく、嗜好性があげられます。後日のヒアリングでは、被験者12名中10名がコーヒーBよりもコーヒーAが好みと回答しました。今回はコーヒーAを好む被験者が多く、コーヒーの嗜好も一部の感性値に影響していた可能性があります。
コーヒーの総合的な味わいと気持ちの関連性を引き続き調査していくことで、ニーズにあったコーヒーの選択など、コーヒーの新たな可能性を提案できると考えます。
1980年に「A circumplex model of affect.」として、James A Russellによって提唱された感情の次元モデル。ラッセルのモデルは、ポジティブ-ネガティブを示す「Valence」と、活性-不活性を示す「Arousal」という2軸から構成されており、その2次元上に喜怒哀楽に関わる様々な感情がプロットされている。
0〜3,1〜5,−3〜+3などの数値尺度により、試料の特性や好ましさを点数によって評価する方法。感覚的な評価項目において、その強さを比較したいときなどに用いられる。
Temporal Dominance of Sensation(質的経時変化測定)法。複数の感覚の時系列変化を同時に測定する手法の一つで、複数の感覚属性の変化を経時的に測定したいときに用いられる。