学術発表

コーヒー由来クロロゲン酸類の食後血中中性脂肪の上昇抑制効果について報告

「薬理と治療」に論文にて報告

UCC上島珈琲株式会社は、北海道情報大学と共同でコーヒー由来クロロゲン酸類の新たな機能性を探る研究を行いました。これらの研究成果は論文として「薬理と治療」にて公開しております。

発表年月日2022.4.20
英文標題Effects of Coffee-derived Chlorogenic Acids on Postprandial Serum Triglyceride Levels -A Randomized, Double-blind, Placebo-controlled, Crossover Study-
和文標題コーヒー由来クロロゲン酸類摂取による食後血中中性脂肪上昇抑制作用の検討 -プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー試験-
発表者名田中藍子、勝山(鏡)豊代、西平順(北海道情報大学)
岩井和也、有木真吾、森本栞(UCC上島珈琲株式会社)
資料名(学会誌)薬理と治療, 50巻, 4号, ページ 721-731(2022)
概要コーヒー由来クロロゲン酸類は、食後の血糖値上昇抑制作用など様々な機能を有することが報告されている。本試験では、プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー試験にてヒトにおける食後血中中性脂肪(TG)の上昇抑制作用を評価した。
空腹時TG値が100 mg/dL 以上および149 mg/dL 以下の 24 人の健康な被験者をランダムに 2 グループに分け、高脂肪食と共に被験食品(コーヒー由来クロロゲン酸類350 mgを含む)、またはプラセボ食品を摂取した。摂取前および摂取後1、2、3、4、6時間後のTG値を測定した。
全被験者解析において、食後TG値は両群間で有意差は確認出来なかった。 しかし、プラセボ食品摂取時のTGの血中最高濃度(TG-Cmax)が200 mg/dL以上の被験者を対象としたサブグループ解析にて、被験食品摂取群はプラセボ食品摂取群と比較して、摂取6時間後、およびTG-Cmax時点の変化量を有意に低下させた (P<0.05)。さらに、試験食品摂取群は TG上昇曲線下面積 (iAUC) 値も低下させた (P<0.10)。なお、試験期間中、試験食品に起因する有害事象は認められなかった。
これらの結果より、コーヒー由来クロロゲン酸類の摂取は、食後TGが高めの健常成人男女に対して、食後TG上昇抑制作用を有することが考えられた。

研究の背景、目的

(1)血中中性脂肪(TG)とは

近年、わが国では脂質を多く含む欧米型の食生活が広まるに従い、動脈硬化性疾患が増加しています。中でも、心疾患と脳血管疾患による死亡率は日本人の死因の約23%を占め、悪性腫瘍と並ぶ主要な死因となっています。脂質異常症は動脈硬化性疾患の危険因子の一つであり、血中中性脂肪(以下、TG)値が高いほど冠動脈疾患の発症頻度が高いことが知られています。また、食後にTGの高い状態が継続することが、動脈硬化性疾患の発症および進行を早めることが報告されています。そのため、日常の生活習慣や食生活において、食後TG値の上昇を抑制することは、動脈硬化性疾患を予防する上で極めて重要と考えられます。

(2)コーヒー由来クロロゲン酸類とは

クロロゲン酸類はコーヒー中に多く含まれるポリフェノールの一種であり、カフェ酸またはフェルラ酸がキナ酸とエステル結合した化合物の総称のことを指します。「コーヒー由来クロロゲン酸類」とはコーヒーに特徴的な含有パターンを示す9種類のクロロゲン酸類のことであり、食後の血糖値上昇抑制作用など様々な機能を有することが報告されている成分です。脂質代謝に関するコーヒー由来クロロゲン酸類の効果もいくつか報告はありますが、ヒトにおける食後TG上昇抑制作用に関する知見は未だ十分に集積されていません。UCCの過去研究より、コーヒー由来クロロゲン酸類は脂肪分解酵素である膵リパーゼ活性を阻害することを確認しており、腸管内での脂肪の分解を抑制することで食後のTG上昇抑制作用が期待されます。そこで、本試験ではプラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー試験デザインにて、空腹時TG値が正常値を示す日本人の成人男女における、コーヒー由来クロロゲン酸類単回摂取時の食後TG上昇抑制作用を検討することにしました。

試験方法

(1)被験者

本臨床試験はヒトを対象とする医学系研究に関する倫理指針に準拠し、ヘルシンキ宣言を遵守して実施されました。また、北海道情報大学生命倫理委員会において臨床試験の実施可能性ならびに倫理的および科学的妥当性について審査され、承認を得ました。試験参加の同意を得られた方に対してスクリーニング検査を行い、空腹時TG値が100 mg/dL以上および149 mg/dL以下を示した24名の健康な成人男女を本試験の被験者として選抜しました。

(2)試験食品

被験食品としてはコーヒー由来クロロゲン酸類を350 mg含有するデカフェコーヒー生豆抽出物の粉末を用い、プラセボ食品としては乳糖粉末を用いました。被験食品とプラセボ食品はコップ1杯程度の水に溶かして摂取しました。

(3)試験方法と評価項目

○試験方法
本試験は、プラセボを対照としたランダム化二重盲検クロスオーバー試験としました。年齢や性別、スクリーニング検査時のTG上昇曲線下面積(以下、iAUC)や空腹時TG値を用いて、被験者をプラセボ食品先行摂取群または被験食品先行摂取群の2群にランダムに割り付けました。
試験スケジュールを図1に示しました。第1回の検査日には、プラセボ食品先行摂取群はプラセボ食品を、被験食品先行摂取群は被験食品を摂取しました。第2回検査日には、プラセボ食品先行摂取群が被験食品を、被験食品先行摂取群はプラセボ食品を摂取しました。なお、各単回摂取検査日前1週間はウォッシュアウト期間としました。
第1回および第2回検査日当日は、血圧・脈拍測定、問診、体重測定の後に空腹時採血を行いました。空腹時採血の後1時間以内に、プラセボ食品または被験食品のいずれかを負荷食品である高脂肪食と共に10分以内に摂取し、摂取1、2、3、4、6時間後に採血を行いました。

図1. 試験スケジュール

○評価項目
本試験では負荷食品摂取1、2、3、4、6時間後、および各被験者のTG最高血中濃度(以下、TG-Cmax)時点におけるTG変化量と負荷食品摂取前から摂取6時間後までのTG-iAUCを主要な評価項目として設定しました。

結果

(1)全被験者における解析

解析除外対象者となった1名を除いた計23名を全被験者として解析しました。しかし、負荷食品摂取1、2、3、4、6時間後、およびTG-Cmax時点におけるTG変化量と負荷食品摂取前から摂取6時間後までのTG-iAUCのいずれにおいても被験食品の有効性は認められませんでした。
また、TG実測値などの他の項目においても両群間で有意差は確認出来ませんでした。

(2)食後TGが高めの被験者における解析

食後TGが高め(本試験におけるプラセボ食品摂取時のTG-Cmaxが200 mg/dL以上)の被験者13名を対象としてサブグループ解析を行いました。負荷食品摂取6時間後、およびTG-Cmax時点におけるTG変化量において有意差を確認し、いずれも被験食品摂取群の方が低値を示しました(P<0.05)(図2)。また、TG-iAUCにおいては有意傾向を示し、被験食品摂取群の方が低値を示しました(P<0.10)。
なお、TG実測値などの他の項目においては両群間で有意差は確認出来ませんでした。

図2. 食後TGが高めの被験者におけるTGの推移
(A)TG変化量(⊿TG)の推移、(B)TG変化量のCmax(TG-⊿Cmax)
平均値±標準偏差(各群n=13)、食品効果:*P<0.05

まとめ

本試験では、プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー試験デザインにて、空腹時TG値が正常値を示す日本人の成人男女における、コーヒー由来クロロゲン酸類単回摂取時の食後TG上昇抑制作用を検討しました。
全被験者解析では被験食品の摂取によるコーヒー由来クロロゲン酸類の食後TG上昇抑制作用を確認出来ませんでした。しかし、食後TGが高めの被験者におけるサブグループ解析を行ったところ、摂取6時間後、およびTG-Cmax時点の変化量において有意差を確認し、いずれも被験食品摂取群が低値を示しました。さらに、TG-iAUCは有意傾向であり、被験食品摂取群の方が低値を示しました。以上から、コーヒー由来クロロゲン酸類の摂取は食後TGが高めの日本人の成人男女に対して、食後TG上昇抑制作用を有することが示されました。
本機能の作用機序としては、UCCが過去に報告したコーヒー由来クロロゲン酸類が膵リパーゼ活性を阻害することで消化管での脂肪の分解を抑制するためであると推察しています(図3)。今回の知見を、食後TGの上昇抑制が期待出来るコーヒーの製品開発に応用し、コーヒーを通じて人々の健康に貢献して参ります。

図3. コーヒー由来クロロゲン酸類による食後の血中中性脂肪上昇抑制作用イメージ図

用語解説

1)プラセボ対照ランダム化二重盲検クロスオーバー試験

対照群としてプラセボ(=有効成分を含まない)食品をおき、試験実施者も被験者も試験食品が被験食品かプラセボ食品か分からないようにし、時期をずらして摂取させ、それぞれの摂取期間の効果を比較する試験方法。ランダム化比較試験の1つであり、根拠の質が高い研究手法。

2)(血中)中性脂肪

グリセリンに脂肪酸がエステル結合したもの。血液中に存在する状態としては脂肪酸が3つ結合したトリグリセリドがほとんどであり、よく“TG”と省略される。食事で摂取する脂質の多くは中性脂肪である。

3)Cmax

対象とする成分の血中最高濃度のこと。本試験の場合、主にTGの血中最高濃度(TG-Cmax)を指す。

4)iAUC

上昇曲線下面積(incremental Area Under the Curve)のこと。食事により血中中性脂肪は一過性の増加を示し、その後定常状態に戻る。iAUC値が低いほど、急激な上昇を防ぐことが出来るため、体への負担が軽減される。

5)9種類のクロロゲン酸類

3種類のカフェオイルキナ酸類、3種類のフェルロイルキナ酸類、3種類のジカフェオイルキナ酸類のこと。

6)膵リパーゼ

膵臓から消化液として分泌され、脂肪を分解して脂肪酸とグリセリンを生成させる酵素。脂肪酸とグリセリンは小腸粘膜の細胞から吸収される。

7)ヘルシンキ宣言

ヒトを対象とした医学・生物学的研究にかかわる医師に対する勧告であり、医師が、患者や被験者の生命と人権を擁護する立場に立つことが原則であると定める。

8)食後TGが高めの被験者

本試験においては、プラセボ食品摂取時のTG-Cmaxが200 mg/dL以上の被験者のことを指す。アメリカ心臓協会(American Heart Association)では、非空腹時のTG値が200 mg/dL以上を脂質代謝異常のリスクが高いと見なしている。

9)ウォッシュアウト期間

先行摂取食品の影響を排除する期間のこと。