学術発表

コーヒー由来トリゴネリンの継続摂取による安静時エネルギー消費に及ぼす影響について報告

「薬理と治療」に論文にて報告

UCC上島珈琲株式会社は、コーヒー由来トリゴネリンの新たな機能性を探る研究を行いました。これらの研究成果は論文として「薬理と治療」にて公開しております。

発表年月日2023.11.20
英文標題Effects of Continuous Intake of Coffee-derived Trigonelline on Resting Energy Expenditure
ーA Randomized, Double-blind, Placebo-controlled, Parallel-group Comparison Studyー
和文標題コーヒー由来トリゴネリンの継続摂取によるエネルギー代謝に及ぼす影響に関する検討
-プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験-
発表者名有木 真吾、森本 栞、今西 貴紀、植田 恵美、岩井 和也(UCC上島珈琲株式会社)
三浦 直樹(医療法人花音会みうらクリニック)
資料名薬理と治療, 51巻, 11, ページ 1713-1729(2023)
概要本研究では、コーヒー由来トリゴネリンの継続摂取による、ヒトにおける安静時エネルギー消費量に及ぼす影響をプラセボ対照二重盲検並行群間比較試験にて評価した。
全被験者(18.5≦BMI<30)解析では、介入終了時点である摂取8週後において、両群間でのコーヒー由来トリゴネリンの効果を確認できなかった。しかし、サブグループ(23≦BMI<30)解析では、コーヒー由来トリゴネリンを8週間継続摂取することで、安静時エネルギー消費量はプラセボ群と比較して有意に向上し(p < 0.05)、褐色脂肪密度においても、プラセボ群と比較して有意傾向を示した(p < 0.10)。
これらの結果より、BMIが高めの方(23≦BMI<30)において、コーヒー由来トリゴネリンの継続摂取は安静時エネルギー消費量を向上させると示唆された。

研究の背景、目的

(1) 肥満とエネルギー消費とは

肥満は糖尿病や脂質異常症・高血圧症・心血管疾患などをはじめとして数多くの生活習慣病の原因となる世界的な健康課題の1つであり、その人口は1975年と比較して約3倍に増加しています。肥満は主に摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることにより起こります。安静時エネルギー消費量は総エネルギー消費量の50 ~ 70%を占めることが知られており、一般的に20代から加齢に伴い低下すると考えられています。これらより、1日の総エネルギー消費量の基盤である安静時エネルギー消費量を増加させることが、肥満の対策につながると考えています。

(2) 脂肪細胞とは

脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞と呼ばれる起源の異なる2つのタイプが存在します。白色脂肪細胞 (White Adipose Tissue: WAT) は余分なエネルギーを中性脂肪として蓄える機能があり、皮下や内臓などに分布しています。対して、褐色脂肪細胞 (Brown Adipose Tissue: BAT) は脂肪を燃焼して熱を産生する機能があり、深部体温の維持に寄与しています。BATは胎児期に分化が完了し、加齢に伴い徐々に減少し、成人以降認められなくなると考えられていました。しかし、近年ヒト成人においてもBATが存在していることが明らかとなり、それらはWATが分化してBATのような機能を有するようになったベージュ脂肪細胞(ベージュ化)であると考えられるようになりました。熱産生にはふるえ熱産生、及び非ふるえ熱産生があり、ベージュ脂肪細胞はBATと同様に脱共役タンパク質 (Uncoupling Protein 1: UCP1) を介した非ふるえ熱産生によりエネルギーを消費しています。

(3) トリゴネリンとは

トリゴネリンは、フェヌグリークや大豆など植物界に広く存在しているアルカロイドの一種で、コーヒーに特に多く含まれています(図1)。熱によって分解されるため、焙煎豆よりも生豆に多く含まれています。コーヒーに含まれる健康成分については、カフェインやクロロゲン酸類がよく知られていますが、トリゴネリンに関する報告はまだ少なく、in vitro試験では、トリゴネリンがβ3アドレナリン受容体を介して3T3-L1細胞から分化したWATのベージュ化を誘導すると報告されていますが、ヒトにおいてエネルギー消費への影響を確認した研究はありません。
そこで、本研究では、20歳以上29歳以下の健常な日本人男女(18.5≦BMI<30)を対象とし、コーヒー由来トリゴネリンを8週間継続摂取した際の安静時エネルギー消費量に及ぼす影響を調査しました。

図1. トリゴネリンの構造

研究概要

(1) 被験者

本試験は「ヘルシンキ宣言」の精神に則り、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守して実施されました。また、医療法人花音会みうらクリニック 倫理審査委員会において、臨床試験の安全性、倫理性、及び科学的妥当性について審査され、承認を得ました。試験参加の同意を得られた者に対し、スクリーニング(摂取開始前)検査を行い、20歳以上29歳以下の健常な日本人男女(18.5≦BMI<30)を対象とし、かつあらかじめ設定した除外基準のいずれにも該当しない100名を被験者として選抜しました。

(2) 試験食品

コーヒー由来トリゴネリンを150 mg含有するコーヒー生豆抽出物粉末を被験食品として用い、デキストリンをカラメル色素で着色した粉末をプラセボ食品として用いました。被験食品とプラセボ食品は1日1包を水またはぬるま湯に溶かして摂取しました。

(3) 試験方法と評価項目

○試験方法
摂取期間を8週間、プラセボ食品摂取群を対照群とする、プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験としました。被験者は性別と年齢、及びスクリーニング(摂取開始前)検査時の19℃の安静時エネルギー消費量と褐色脂肪密度を割付因子として、被験食品摂取群とプラセボ食品摂取群(対照群)の2群(各群50名)にランダムに割付けられました。
検査は、スクリーニング (摂取開始前)、摂取4週後、摂取8週後に行い、試験食品の継続摂取(2023年1月末から3月末にかけて摂取)における有効性を確認しました。検査当日のスケジュールを図2に示しました。被験者は室温27℃に調整された試験室に入室し問診を受けた後、理学検査、及び臨床検査を実施しました。体組成測定ではBMIや体脂肪量、筋肉量などを計測し、内臓・皮下脂肪の測定を行いました。褐色脂肪密度は、鎖骨上窩部におけるトータルヘモグロビン量として算出しました。これらの検査・測定を実施した後、室温に馴化した状態で呼気測定を実施し、安静時エネルギー消費量、呼吸商の算出を行いました。なお、呼気測定は27℃室温環境下、19℃室温環境下での寒冷負荷120分後の計2回実施しました。

図2. 検査当日のスケジュール

○評価項目
1)主要評価項目
安静時エネルギー消費量における、被験食品摂取群とプラセボ食品摂取群の群間差としました。

2)副次評価項目
褐色脂肪密度、呼吸商、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積、体脂肪量、筋肉量、体温における、被験食品摂取群とプラセボ食品摂取群の群間差としました。

結果

(1) 全被験者解析

自己都合による脱落者9名を除く、被験食品摂取群46名とプラセボ食品摂取群45名を全被験者として解析を行いました。主要評価項目の安静時エネルギー消費量、及び副次評価項目の各項目において、介入終了時点である摂取8週後の群間での有意差は確認できませんでした。

(2) BMIが高めの被験者における解析

WHO(WPRO)/IASO/IOTFでは、アジア系成人は2型糖尿病の罹患率から BMI 23以上を”適正体重超え (overweight)”としています。また、日本国内での基準として「特定保健用食品申請に係る申請書作成上の留意事項」では、BMIが23以上25未満を正常高値、25以上30未満を肥満Ⅰ度と規定しています。これらの基準より、肥満を原因とした慢性疾患に関する潜在的なリスクを評価するため、本試験におけるスクリーニング(摂取開始前)時のBMIが23以上の被験者(被験食品摂取群:9名、プラセボ食品摂取群:11名)によるサブグループ解析を行いました。
主要評価項目の安静時エネルギー消費量において、介入終了時点である摂取8週後の27℃の実測値で群間における有意差(p < 0.05)を確認し、プラセボ食品摂取群と比較して被験食品摂取群が高値を示しました(図3)。また、同時点の19℃においても被験食品摂取群の方が高値を示しましたが、寒冷負荷前に摂取した試験食品の影響か、ばらつきが大きくなり有意差としては確認できませんでした。加えて、副次評価項目である褐色脂肪密度において、介入終了時点である摂取8週後の変化量で群間における有意傾向(p < 0.10)を確認し、プラセボ食品摂取群と比較して被験食品摂取群が高値を示しました。
なお、その他項目において、介入終了時点である摂取8週後における群間での有意差等は確認できませんでした。

図3. BMIが高めの被験者における27℃の安静時エネルギー消費量の実測値の推移

まとめ

本試験では20歳以上29歳以下の健常な日本人男女(18.5≦BMI<30)100名を対象として、コーヒー由来トリゴネリンを8週間継続摂取した際の安静時エネルギー消費量に及ぼす影響を、プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験にて検討しました。
全被験者解析では被験食品の摂取によるコーヒー由来トリゴネリンの安静時エネルギー消費量に対する影響を確認できませんでした。しかし、BMIが高めの被験者(23≦BMI<30)におけるサブグループ解析を行ったところ、介入終了時点である摂取8週後の27℃の安静時エネルギー消費量の実測値において有意差を確認し、被験食品摂取群が高値を示しました。さらに、褐色脂肪密度の変化量において、有意傾向を確認し、同じく被験食品摂取群が高値を示しました。鎖骨上窩部には古典的なBATに加え、ベージュ脂肪細胞も存在しているとの報告があることから、今回の試験結果は、ベージュ脂肪細胞が増加したことによるものだと考えました。
以上から、コーヒー由来トリゴネリンの継続摂取はBMIが高めの日本人の成人男女に対して、安静時エネルギー消費量を向上させることが示され、その機序としては、コーヒー由来トリゴネリンがWATに作用し、ベージュ化を誘導させることであると示唆されました(図4)。
これからもコーヒーのあらゆる価値を探求し、コーヒーの健康価値創造を通じて、世界中の人々の健康に貢献してまいります。

図4. コーヒー由来トリゴネリンの作用機序イメージ図

用語解説

1)プラセボ対照ランダム化二重盲検並行群間比較試験

対照群としてプラセボ(=有効成分を含まない)食品をおき、試験実施者も被験者も試験食品が被験食品かプラセボ食品か分からないように各群に割付し、それぞれの試験食品を一定の期間摂取した際の各群間における効果を比較する試験方法。ランダム化比較試験の1つであり、根拠の質が高い研究手法。

2)分化

特に細胞において、ある特性を持つような細胞に変化すること。

3)アルカロイド

植物界に広く分布し、窒素原子を含むような天然由来の有機化合物の総称のこと。塩基性を示すことが多く、現在までに数千種類以上同定されている。

4)β3アドレナリン受容体

Gタンパク質共役受容体(G protein-coupled receptor : GPCR)の1種類であり、脂肪細胞を始めとして、消化管、肝臓や骨格筋などに存在するとされている。

5)3T3-L1細胞

脂肪細胞様の細胞へと化学的に分化誘導できるマウス胎児線維芽細胞株のこと。脂肪細胞を用いた研究を行う際、頻繁に使用される細胞。

6)ヘルシンキ宣言

ヒトを対象とした医学・生物学的研究にかかわる医師に対する勧告であり、医師が、患者や被験者の生命と人権を擁護する立場に立つことが原則であると定める。

7)WHO(WPRO)/IASO/IOTF

世界保健機関の西太平洋地域事務局(WHO(WPRO))、肥満研究国際協会(IASO)、及び国際肥満タスクフォース(IOTF)のこと。なお、IASOとIOTFについて現在は「World Obesity Federation(世界肥満連盟)」として活動している。