PAPA CAFE コーヒーコラム
[2012.12] アウトドアライター ホーボージュンさん [1963年生]
アウトドアライターという職業柄、年間100日近くを野宿で過ごしている。旅先にはバックパックに入る分の荷物しか持っていけないのでギア類は徹底的に厳選するが、コーヒーの道具だけは必ず持っていく。深めに炒った豆と、折りたたみ式のドリッパー、そしてチタン製のシェラカップは僕の旅には欠かせない。まる1日クタクタになるまで歩き、テントを張り、焚き火をおこす。お湯を沸かし、質素だがカロリーの高い食事を取る。そして満天の星空を眺めながら食後のコーヒー……。それが僕の至福の時間だ。3年ほど前、僕は南米大陸のパタゴニアにある世界最南端のトレイルをひとりで歩きに行った。フィン・デル・ムンド(世界の果て)と呼ばれる場所だ。日本を出て11日目。僕は南緯55度06分にあるトレイルの最南端に到達し、そこでコーヒーをいれた。南極ブナの枯れ枝で火をおこし、氷河で汲んだ碧く硬い水でいれたこの一杯を今も忘れることはできない。シェラカップにそっと口をつけると、焚き火の匂いの向こうに深い苦みとほんのりとした甘さが広がった。それはまるで人類が辿ってきた原始の記憶をかき立てられるような、ワイルドでどこか懐かしい味だった。