学術発表

コーヒー豆由来アラビノガラクタンのビフィズス菌増殖効果について報告

日本食品部生物学会で論文にて報告

UCC上島珈琲株式会社は神戸大学との共同研究により、コーヒー豆に含まれる水溶性多糖類の一種であるアラビノガラクタンに特定のビフィズス菌を増殖させる効果があることを発見しました。この成果は日本食品微生物学会で論文にて報告しています。

発表年月日2007.12.15
英文標題Utilization by Intestinal Bacteria and Digestibility of Arabinogalactan from Coffee Bean In Vitro
和文標題コーヒー豆由来アラビノガラクタンの腸内細菌に対する資化性
著者名堀牧恵、岩井和也、木村良太郎、中桐理(UCC上島珈琲 R&Dセンター)、高木道浩(神戸大学農学部)
資料名日本食品微生物学会雑誌(Vol.24 No.4 Page.163-170)
抄録コーヒー豆中の主要な細胞壁構成成分であるアラビノガラクタン(AG)について、このAGの腸内細菌による資化性をBifidobactenum属10種23株、 Clostndium属5種5株、Lactobacillus属8種8株、Enterococcus faecalis 1株、Escherichia coli 1株の合計5属25種38株を用いてin vitroで調べた。
1. Bifidobacterium longum およびBifidobacterium pseudocatenulatumは、コーヒー豆由来AGを炭素源として添加、培養することにより生菌数の増加、培地のpHの低下、乳酸、酢酸の蓄積が認められた。
2. B.longumは菌体外酵素を生産し、コーヒー豆由来AGをアラビノース、ガラクトースおよび2糖と思われるオリゴ糖に分解・資化していることが示唆された。
3. コーヒー豆由来AGのヒトおよびラット消化液による分解性をin vitroで調べたところ、人工唾液、人工胃液、人工膵液、人工小腸液にほとんど分解されなかった。以上のことからコーヒー豆由来AGは効果の高い新規のプレバイオティクスであることが示唆された。

研究の背景、目的

コーヒー豆のおおよそ50%は厚い細胞壁に覆われ、その細胞壁は多糖類という食物繊維の一種で構成されています。このコーヒー豆由来の多糖類の生物活性については今までほとんど明らかにされていませんでした。今回、コーヒー豆に10%以上含まれる水溶性多糖類アラビノガラクタンについて注目し、アラビノガラクタンの腸内細菌の増殖に対する影響について検討を行いました。

研究概要

(1)コーヒー豆アラビノガラクタンの腸内細菌増殖試験

コーヒー豆由来アラビノガラクタンとヒト腸内細菌34株の細菌を共に培養した結果、ビフィズス菌であるBifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)、Bifidobacterium pseudocatenulatum(ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム)が良好に増殖し、乳酸と酢酸を産生したことがわかりました。一方で腸内有害菌とされているClostridium(クロストリジウム)やEscherichia coli(エシェリキア・コリ=大腸菌)をアラビノガラクタンと共に培養してもほとんど増殖しませんでした。

図1. Bifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)のアラビノガラクタンでの増殖度 JCM:(独)理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室 保有の微生物 ATCC:The Global Bioresource center(アメリカ) 保有の微生物
表1. 腸内細菌(クロストリジウム属および大腸菌)のアラビノガラクタンによる増殖 判定基準 培地のpHが0.5より低下しなかった→(-)、 培地のpHが0.5以上1.0未満で低下した→(±)、 培地のpHが1.0以上1.5未満で低下した→(+)、 培地のpHが1.5以上低下した(++) NBRC:(独)製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門 保有の微生物

(2)ヒトおよびラットの消化酵素によるアラビノガラクタンの分解試験

ヒト由来アミラーゼ、ブタ膵臓由来アミラーゼ、ラット腸管内容物粉末を用いて人工唾液、人工胃液、人工膵液、人工小腸液モデルを作成しました。この人工消化液にアラビノガラクタンを作用させましたが、アラビノガラクタンはいずれの人工消化液モデルにおいてもほとんど分解されませんでした。すなわち、アラビノガラクタンはヒトをはじめ哺乳類の消化酵素では分解されず、そのままの形で腸内に達することを意味します。

(3)乳酸菌の酵素によるアラビノガラクタンの分解確認試験

続いて、アラビノガラクタンでよく増殖したBifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)から酵素を取り出し、アラビノガラクタンと37℃で反応させ、生じてくる分解物を調べました。その結果、Bifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)の酵素はアラビノガラクタンをアラビノース、ガラクトース、オリゴ糖に分解していることがわかりました。すなわち、Bifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)はアラビノガラクタンを自身の分泌する酵素で分解してから菌体内に取り入れていると思われます。

図2. Bifidobacterium longum JCM1217Tのアラビノガラクタンの分解

(Bifidobacterium longum JCM1217Tの培養液をアラビノガラクタンに添加し、37℃で反応させ、
1時間おきにアラビノガラクタンの分解生成物を分析した)
A=アラビノース、B=ガラクトース、C=オリゴ糖と推測される

まとめ

この研究で、コーヒー豆由来のアラビノガラクタンビフィズス菌といわれる乳酸菌の一種、Bifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)、Bifidobacterium pseudocatenulatum(ビフィドバクテリウム・シュードカテニュレイタム)を特異的に増殖させることがわかりました。一方で、一般的に悪玉菌といわれる微生物はアラビノガラクタンを与えても増殖しませんでした。

またアラビノガラクタンは消化酵素では分解されないことがわかり、アラビノガラクタンを摂取した場合、消化されずそのまま腸内に達し、ビフィズス菌が自身の酵素によってアラビノガラクタンを分解し、栄養源として増殖することが考えられました。

Bifidobacterium longum(ビフィドバクテリウム・ロンガム)はヒト腸内細菌の中で、有用細菌の代表的な菌種として知られております。近年、ビフィズス菌と生活習慣病予防や花粉症予防などの関連について注目されており、ビフィズス菌の重要性が明らかになってきています。今回の実験でアラビノガラクタンが整腸作用を持つ可能性があることが考えられましたが、実際にヒトで効果があるかどうかは今後より詳細に調査する必要があります。

用語解説

1)多糖類

多糖類とは、ブドウ糖など単糖分子が多数重合した糖のことで、例えば動物はブドウ糖が重合したデンプンを消化しエネルギー源とする。しかし消化酵素で消化されない多糖も多く、これらは食物繊維として扱われる。

2)アラビノガラクタン

主にアラビノースとガラクトースという単糖で構成される多糖類で、コーヒー豆の細胞壁に含まれる。人間の消化酵素では分解されない。

3)ビフィズス菌

Bifidobacterium(ビフィドバクテリウム)属とも呼ばれる乳酸菌の一種で、乳酸と酢酸を産生する。ビフィズス菌は、乳児のうち特に母乳栄養児の消化管内において最も数が多い消化管常在菌である。その後、加齢に伴って減少していく。

4)Clostridium(クロストリジウム)属

生物の腸内などの酸素濃度が低い環境に生息する微生物で、ヒトに対する病原性を有するものも知られており、腸内細菌の中ではいわゆる「悪玉菌」と呼ばれる。破傷風菌や食中毒菌であるボツリヌス菌もクロストリジウム属の一種である。