学術発表
UCC上島珈琲株式会社は大阪府立大学と共同で、コーヒー豆をほぼ完全に溶解させる技術を開発しました。これらの研究成果は、第58回日本生物工学会(2006年9月11日~13日 大阪大学⁄大阪府豊中市)、第55回日本応用糖質科学会(2006年9月27日~29日 大阪府立大学⁄大阪府堺市)、第61回日本栄養・食糧学会(2007年5月17日~20日 国立京都国際会館⁄京都府京都市)、第56回日本応用糖質科学会(2007年8月29日~31日 日本大学⁄神奈川県藤沢市)にて発表しており、論文としてJournal of Agricultural and Food Chemistryにまとめております。
発表年月日 | 2006.08.23 |
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英文標題 | Efficient Digestion and Structural Characteristics of Cell Walls of Coffee Beans |
和文標題 | コーヒー豆細胞壁の効果的消化及び構造特性 |
著者名 | 笠井尚哉、小西絢子(大阪府立大学) 、岩井和也、前田剛(UCC上島珈琲株式会社R&Dセンター) |
資料名 | J. Agric. Food Chem.(American Chemical Society Publications)(Vol.54 No.17 Page.6336-6342) 写図表参:写図6、表2、参26 |
抄録 | コーヒー豆細胞壁の消化に適するTrichoderma株のセルラーゼを探索した。生及び焙煎豆の細胞壁消化は、pH10でのアルカリ煮沸、セルラーゼ分解、オートクレーブ処理、セルラーゼによる再分解の工程で行った。全消化収率は生豆>95%、焙煎豆で>96%であった。消化又は抽出物と残存物の中性糖分析、及び消化の各段階でトルイジン青染色し、顕微鏡観察を行った。細胞壁は少なくともガラクトマンナン-セルロース(中央部)、アラビノガラクタン-タンパク質の膜、セルロースに富むガラクトマンナン層、アラビノガラクタン-多タンパク質層(外相部)である。 |
普段私たちが飲用するコーヒーの約50%は非常に厚く強固な細胞壁で覆われていますが、その詳細な構造や成分についてはよくわかっておらず、またこの細胞壁を高度に加工・利用した例はほとんど見られないのが現状でした。私たちは、コーヒー豆を高度に利用することを目的に、まずコーヒー豆の細胞壁の成分やその分布を顕微鏡で観察することから始め、効率的な処理方法とその組み合わせについて検討を重ねてきました。
コーヒー豆は非常に堅牢な種子で(図1A)、大豆(図1B)と比べるとごつごつした分厚い細胞壁で覆われていることが分かります。従来の方法でこの厚い細胞壁を分解させるためには大規模な装置で高温、高圧をかけて処理しなければなりませんでした。またコーヒー豆に食品工業で使用される分解酵素をそのまま添加しても、その強固さ故に溶解させることはできません。そこで前処理としてアルカリ性条件での加熱を検討しました。その結果、ある程度、コーヒー豆は柔らかくなり可溶性物質が溶出しましたが、完全に分解するわけではありませんでした。
アルカリ処理を行ったコーヒー豆に酵素を添加して分解を行いました。アルカリ処理によって細胞と細胞が緩み、緩んだ細胞の間隙に酵素が入り込むことによって劇的に細胞壁が分解されることが分かりました。図2は、アルカリ処理後のコーヒー豆です。コーヒー豆の細胞はアルカリ処理で空洞になり、骨組みのような組織になりますが、この骨組みも更に酵素処理を施せば、図3のようにほとんど崩壊するまでに分解しました。
コーヒー豆の溶液中には、アラビノース、ガラクトースなどの単糖類のほか、ガラクトマンナン、アラビノガラクタンなどの多糖類、分子量6800程度のタンパク質、灰分などが含まれていることがわかりました。またこれらの物質がパイのように層状に積み重なってコーヒー豆の細胞壁を形成していることが初めて明らかになりました。
コーヒー豆の溶液中に含まれる物質は、さまざまな食品工業における素材として活用できる可能性があります。この処理方法はコーヒー生豆、焙煎豆、抽出残渣にも応用できることから、私たちはこの技術をもとに、コーヒー豆を飲用するだけでなく【コーヒー豆を全て利用する技術】へ活用していこうと考えています。
植物や菌類、細菌類の細胞にみられる構造で、植物ではこの壁によって細胞の内容物が保護され、細胞の大きさが制限される。これはまた、植物が生きていくうえで重要な構造的・生理的役割をはたし、輸送・吸収・分泌に関与する。細胞壁は糖がいくつもつながった多糖類によって構成されており、多くの植物細胞には、生長中の細胞の1次壁と、生長がおわった細胞の1次壁の内側にできる2次壁の両方がある。コーヒー豆も様々な成分が層になって細胞壁を構成している。
単糖分子が多数重合した糖のことで、例えばブドウ糖がいくつも繋がるとデンプンとなり、動物はこれを消化しエネルギー源とする。しかし消化酵素で消化されない多糖も多く、これらは食物繊維として扱われる。コーヒーの細胞壁はアラビノガラクタン、ガラクトマンナン、セルロースと呼ばれる多糖類が主体となって構成されており、人間の消化酵素では分解できない。