学術発表
UCC上島珈琲株式会社は、近畿大学農学部と共同で、コーヒー抽出残渣の植物生育に及ぼす影響について研究を行いました。これらの研究成果は、第232回日本作物学会講演会(2011年8月31日~9月3日 山口大学/山口県山口市)にて発表しており、論文としてPlant Production Scienceにまとめております。
発表年月日 | 2013.5.9 |
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英文標題 | Field Evaluation of Coffee Grounds Application for Crop Grouth Enhancement, Weed Control, and Soil Improvement |
和文標題 | 農作物成長促進、雑草防除および土壌改良用のコーヒーかす施用の圃場評価 |
著者名 | 山根浩二、河野充晃、渡邊芳倫、飯嶋盛雄(近畿大学農学部)、福永泰司、岩井和也、関根理恵(UCC上島珈琲株式会社) |
資料名 | Plant Production Science,17,93-102(2014) |
抄録 | 作物成長促進、雑草防除および土壌改良の観点で、2年間(2009年6月~2011年5月まで)の4連作期の間の農作物畑地でのコーヒー残渣の利用について評価した。実験には5種の夏用と3種の冬用の緑肥作物を用いた。初年度の夏作では、10kg/m2のコーヒー残渣の散布によって、すべての緑肥作物の成長は著しく抑制された。しかし、この生育阻害は第2作期(約12カ月後)の後減少し、特にギニアグラス、ソルガムおよびヒマワリは対照よりおよそ2倍重量生育した。また高濃度のコーヒー残渣が含まれる場合でも、ウマ厩肥を同時に施用すれば、植物生育抑制作用は緩和された。雑草防除の観点でコーヒー残渣を16kg/m2散布した場合、雑草の生育は強く抑制されたが、この効果は半年間の維持に留まった。コーヒー残渣の土壌改良効果については、土壌の炭素、窒素両方の含有量を効果的に増加させ、かつC/N比を減少させた。この効果は窒素富化とC/N比改良の観点でウマ厩肥散布と比較して著しく高かった。以上の結果より、コーヒー残渣が農地での長期的視野での農作物栽培、短期雑草防除、および土壌改良に有益であること、さらに輪作における休閑期でのコーヒー残渣の利用について有用であることが分かった。 |
コーヒー抽出残渣は、コーヒー飲料製造工場のほか、レストラン、喫茶店、ファストフード店や家庭からも排出され、その多くは廃棄物として処理されています。コーヒー抽出残渣を土壌改良剤として利用するアイデアは古くからあり、ガーデニングなどで利用する方が多いようです。しかし実際にコーヒー抽出残渣を田畑に施用し、植物の成長を長期的に観察し、学術的に報告した例はほとんどありません。本研究では、農耕地にコーヒー抽出残渣を投入し、緑肥作物の生育を2年に渡って観察することで、コーヒー抽出残渣の植物生育への効果を確認しました。
2009年5月29日に、図1に示すように、対照区、コーヒー抽出残渣低濃度区(1kg/m2)コーヒー抽出残渣高濃度区(10kg/m2)の3種類の試験区を設けました(区画は1m×2m)。
区画にはコーヒー抽出残渣を散布し、15cmの深さで耕した後、農薬や有機・化学肥料を一切使わず、2年間緑肥作物1)の栽培を繰り返しました。
栽培スケジュールと生育試験を行った植物を図2、図3、図4に示しました。
夏作(春から秋にかけて栽培)として5種類の緑肥作物を使用しました。
・アルファルファ ・ギニアグラス ・クロタラリア ・ソルガム ・ヒマワリ
冬作(秋から春にかけて栽培)として3種類の緑肥作物を使用しました。
・ライムギ ・オオムギ ・エンバク
緑肥作物の種をそれぞれの区画に播き、栽培期間終了後は地上部分を収穫し、乾燥重量を測定しました。夏作の収穫後、同じ区画に冬作として栽培する植物の種を播き、同様に収穫し乾燥重量を測定しました。同じ試験をそれぞれ3区画行い、平均値をデータとしました。
栽培試験中の写真は図5に示しています
栽培試験が終わった後の区画の土壌(深さ15cmまで)を採取し、CNアナライザー(MT-700II)で炭素量と窒素量を測定しました。
コーヒー抽出残渣を投入した区画で緑肥作物を生育させると、1年目の夏作(コーヒー抽出残渣施用後13~89日)は、どの作物種も生育が抑制され、とくに高濃度区(10kg/m2)で顕著に抑制されました。しかし、その後に生育させた1年目の冬作(コーヒー抽出残渣施用後165~354日)の生育は抑制されませんでした(図6参照)。
2年目になると、夏作(コーヒー抽出残渣施用後377~486日)・冬作(コーヒー抽出残渣施用後526~717日)では対照(0kg/m2)と比較して生育は抑制されず、ギニアグラス、ソルガム、ヒマワリでは対照よりもよく生育しました。
尚、栽培試験全体を通して、クロタラリア(マメ科)、ライムギ、エンバクは、コーヒー抽出残渣の低濃度区(1kg/m2)だと生育阻害効果を受けにくいことがわかりました。
図8に示すように、土壌の炭素(C)、窒素(N)量は、コーヒー抽出残渣の低濃度区(1kg/m2)の場合、対照と比較してほとんど変化はありませんでしたが、高濃度区(10kg/m2)の場合、それぞれC、N量は、対照と比較してほぼ2倍の数値を示し、C/N比2)は低下しました。
コーヒー抽出残渣を施用すればするほど、緑肥植物の成長は抑えられました。その理由として、コーヒー抽出残渣には、植物に対して生育阻害を起こす物質(カフェイン、ポリフェノール)が含まれていたため、緑肥植物の生育に悪影響を及ぼしたと考えられます。
しかし、コーヒー抽出残渣が多孔質であることから、空気や水を土壌微生物群(カビ、細菌、放線菌など)に供給しやすい環境であったものと考えられます。まず土壌の微生物群によってカフェイン、ポリフェノールなどが少しずつ分解・減少し、さらにコーヒー抽出残渣に含まれる不溶性のタンパク質等も分解され、肥料の三要素3)の一つ、窒素(無機窒素)に変わりつつあったと考えられます。
2年目以降は土壌微生物群によって、コーヒー抽出残渣由来のタンパク質が無機窒素と呼ばれる植物に吸収されやすい形に分解され、緑肥作物に対し肥料としての効果を及ぼすこととなり、その結果、緑肥植物が生育したと考えられます。
1) 畑作農業で地力を回復させるため休閑をおこなう場合、まずコーヒー抽出残渣を大量に施用し、雑草を制御しつつ、ゆっくりと土壌微生物群によるコーヒー抽出残渣の分解を進め、土壌中の窒素を増やし、地力を向上させます。その後よく耕起させ、作物を栽培することができます。
2) 植物の種類により、コーヒー抽出残渣の生育阻害の影響が違うことがわかりました。クロタラリア(マメ科)は、コーヒー抽出残渣1kg/m2、またライムギ、エンバクではコーヒー抽出残渣10kg/m2でも生育に大きな影響を受けませんでした。これらの植物は、コーヒー抽出残渣を使った作物栽培のローテーションに有用と考えられます(図6参照)。
3) コーヒー抽出残渣に厩肥4)を混ぜた堆肥を施用すると、植物生育阻害効果が見られ難いことから(「作物の生育への効果」 参照)、コーヒー抽出残渣を堆肥にして利用すれば、休閑を行う必要なしに作物が栽培できます。
以上の結果から、コーヒー抽出残渣は有機質資材として農耕地へ投入できることが明らかになりました。
目的とする作物を育てる前に、あらかじめ肥料として栽培される植物で、田畑で栽培した後、そのまま土壌にすき込まれ土壌中で分解させて肥料とする。現在ではレンゲ、クローバーなどが代表的な緑肥植物である。江戸時代にはすでに緑肥を使って稲作が行われていたが、緑肥による農業は化学肥料の普及によりほとんど見られなくなった。しかし近年、緑肥は有機栽培等の環境保全型農業に適し、施肥コストが低減できるほか、有害センチュウ類をはじめとした病害虫抑制等の効果があることが明らかになり、再注目されている。
炭素(C)と窒素(N)の割合。例えばC/N比が13の場合、窒素が1kgあったとすると炭素が13kg含まれることになる。土壌中で十分に分解された有機物のC/N比は10程度、新鮮な落葉は50、稲わらは70程度。C/N比が高い有機物が土壌にあると、土壌中の微生物(カビ、放線菌、細菌など)がそれを分解するために多くの窒素を必要とし、土壌中の窒素が一時的に少なくなる現象(窒素飢餓)がみられるため注意が必要。逆に、C/N比が低い有機肥料の場合は、作物に対する効果が速く現れるが、保水性、通気性など土壌改良効果は低い。
①窒素、②リン酸、③カリウムを、特に植物が多量に必要とし、肥料として与えるべきものとして肥料の三要素という。窒素は、主に植物を大きく生長させる作用、特に葉を大きくさせやすく、葉肥(はごえ)と言われる(過剰に与えると軟弱になるため病虫害に侵されやすくなる)。リン酸は、主に開花結実に関係する。花肥(はなごえ)または実肥(みごえ)と言われる。カリウムは、主に根の発育に関係するため根肥(ねごえ)といわれる。
家畜の糞尿・敷きわら・草などを混ぜて発酵させた有機質肥料。