学術発表

味覚センサに応答するコーヒーに含まれる苦味物質について報告

第27回国際コーヒー科学会議(ASIC)にて発表

UCC上島珈琲株式会社は、九州大学、株式会社インテリジェントセンサーテクノロジーと共同で、味覚センサに応答するコーヒー中の苦味物質について研究を行いました。この研究成果は、第27回国際コーヒー科学会議(ASIC)(2018年9月17日~9月20日 オレゴンコンベンションセンター/アメリカオレゴン州)にて口頭発表しております。

発表年月日2018.9.18
英文標題Investigation of bitter substances in coffee brews responding to taste sensor
和文標題味覚センサに応答するコーヒーに含まれる苦味物質の探索
著者名藤本浩史、福永泰司、岩井和也、成田優作、半澤拓、小林司、垣内美紗子(UCC上島珈琲株式会社)
都甲潔、田原祐助、巫霄、三宅一成(九州大学)
池崎秀和(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)
資料名
抄録【背景・目的】
味覚センサは苦味、甘味、塩味、酸味、うま味および渋味等の味の客観的な可視化が可能なため、食品業界において広く使用されており、特にコーヒー業界では、製品の比較、料理とのマリアージュ分析、品質検査等のために応用されている。先行研究では、味覚センサの苦味応答値は、人間による官能検査結果と強く相関することが証明されている。一方で、味覚センサは広い選択性を有するため、コーヒーに含まれるどの物質が味覚センサの苦味応答値に寄与しているかは不明である。
本研究では、味覚センサに応答するコーヒー中の苦味物質を探索することを目的とした。

【方法】
焙煎度の異なるブラジル産コーヒー豆からコーヒー抽出液を得た。有機溶媒を用いた液-液抽出により、コーヒー抽出液を4つの画分に分画した後、各画分の苦味応答値を味覚センサにより分析した。 液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計(LC-MS/MS)により、各画分に含まれる物質の相対定量を行った。味覚センサ、LC-MS/MSから得られた結果をPLS回帰分析に供し、味覚センサの苦味応答値に寄与する物質を探索した。

【結果】
PLS回帰分析の結果、ニコチン酸およびニコチン酸アミドが味覚センサの苦味応答値に強く寄与していることを明らかにした。 ニコチン酸およびニコチン酸アミドを添加したコーヒーの苦味応答値は、添加前のコーヒーと比較し増加した。またニコチン酸、ニコチン酸アミドを添加したコーヒーの官能試験は、添加前のコーヒーよりも苦味が増加したという結果であった。
今後、味覚センサを活用することで、所望の風味を有するコーヒー飲料を作ることがより容易になることが期待される。

研究の背景、目的

味覚センサ

味覚センサとは、人の五感の一つである味覚の代わりとなる装置です。客観的な味の可視化が可能なことから、製品の比較、品質管理等、食品業界では広く使用されています。九州大学と株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー社が開発した「人工脂質膜型味覚センサ」は様々な呈味物質に対して応答します。

図1. 人工脂質膜型味覚センサ

人工脂質膜型味覚センサは複雑な人の味覚受容体を模倣した装置のため、その応答メカニズムは非常に複雑で、センサごとに応答する物質も不明瞭なままでした。
本研究ではコーヒーの特徴的な呈味の一つである苦味について、味覚センサを用いて分析しコーヒー中に含まれているどの化合物に強く応答しているのか明らかにするため、実験を行いました。

研究概要

1.コーヒーに含まれる苦味物質の探索

異なる焙煎度のブラジル産アラビカ種の豆からコーヒー抽出液を得ました。得られたコーヒー抽出液を有機溶媒による液-液分画により、4つの画分に分けました。

図2. コーヒー抽出物の分画

味覚センサ、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を使用し、それぞれの画分について苦味応答値と、含まれている物質の量を算出しました。苦味応答値と含まれている物質の量をPLS(Projection to latent structure)回帰分析に供したところ、コーヒーに含まれるニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビニルカテコールオリゴマーが味覚センサの苦味応答値に強く寄与していることが明らかとなりました。

図3. PLS回帰分析

2.ニコチン酸、ニコチン酸アミドの添加実験

コーヒーに含まれている10倍量のニコチン酸、ニコチン酸アミドをコーヒーに添加し、苦味応答値が増加するか検証を行いました。ニコチン酸、ニコチン酸アミドを添加することで、味覚センサの苦味応答値が増加することを確認いたしました。

図4. ニコチン酸、ニコチン酸アミドの添加によるコーヒーの苦味応答値の変化

またニコチン酸、ニコチン酸アミドを添加したコーヒーの試飲を行い実際に苦味が増加していることを確認いたしました。

まとめ

味覚センサの苦味応答値にはニコチン酸、ニコチン酸アミドが強く寄与していることを明らかにしました。
コーヒーの苦味は非常に複雑で種類も多いためまだ明らかになっていないことが多いですが、本法を活用することでコーヒーの苦味についての解明が進むことが期待されます。
今回得られた知見を活用することで、所望の風味のコーヒー飲料を開発することが容易になることが期待されます。

用語解説

1)液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析計(LC-MS/MS)

混合物に含まれる物質を定量する方法の一つ。幅広い化合物を測定可能。

2) PLS(Projection to latent structure)回帰分析

予測モデルを構築する多変量解析の手法の一つ。食品分野では品種の判別やおいしさの予測等、幅広く活用されている。

3)ニコチン酸、ニコチン酸アミド

2つの化合物共にナイアシンやビタミンB3として知られる。レバー・肉・魚等に多く含まれており、苦味物質とされている。